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東京を巡る対談 月一更新

幸村誠(漫画家)×平本正宏 対談 『2001年宇宙の旅』から12年経って


<何がプロフェッショナルで、何がアマチュアか>

平本 作曲家は特別資格があるものではないので、音楽を作って作曲家と自分で名乗って仕事をもらえれば、作曲家になってしまうんです。そうなると判断されるのは、どんな仕事をしたか、誰と仕事をしたか、その仕事はどんな曲だったかで、しかも連載のような状況がないので、一回一回のクオリティを本気でいいものにしないと次の仕事に繋がりません。漫画家に置き換えれば、全部が読み切りのような仕事で、いい読み切りを描くことで次の読み切りの仕事を獲得する感じです。

幸村 その感覚はわかります。「あの音楽を作った平本さん」という風に紹介されるようにならなくてはいけないんですね。

平本 そうですね。そう言われる仕事が多くあればあるほどいいですね。

幸村 我々は、どこかで楽をしたいという気持ちが働いてしまう生き物ですが、でも手を抜いたらお客さんはすぐにそれを見破りますよね。

平本 それはそう思います。加えてコンピューターで作曲をする時代になりましたので、プロフェッショナルとアマチュアの機材の差がなくなっています。昔はプロの人はすごく高価な機材を使っていて、アマチュアはお金も場所もなく手が出せませんでしたが、いまは皆同じソフトウェアを使っている。音楽の発表もYouTubeやニコニコ動画をはじめ、いろいろなサイトで手軽に発表できますので土俵が同じなんです。そうなると何がプロフェッショナルで、何がアマチュアか、その境界線が曖昧になります。

幸村 理想的な時代と言えなくもないですが、競争は激しくなりますね。

平本 そうですね。だから、新しいことへのチャレンジをしなくなった瞬間に作曲家生命、アーティスト生命がパッと消えると思っています。時代を見ながら、どんなことをするのが面白いか、それを求められている気がします。

幸村 僕の友達が初音ミクで曲を作っているんですが、それなりのものなんです。でも彼は音楽の勉強をしたことはないんです、コンピューターには詳しいんですが。

平本 最近のソフトウェアはすごくよくできていて、簡単にいい音が鳴るんですね。そうなると小手先のことは通用しなくて、本当の意味でプロフェッショナルにならなくてはいけないんです。それこそ、幸村さんがさっきおっしゃった、多くの人がおいそれとは追いつかないものに仕上げるしかないんです。気を引き締めなくてはいけませんね(笑)。

幸村さんはいま『ヴィンランド・サガ』を現在8年連載されていますが、連載していく感覚ってどんな感じですか? さっき伺ったところによると、もう結末は決まっているそうですが。時間の使い方やモチベーションの保ち方などありましたら。


幸村 当初の想定では10年連載して完結させる予定でしたが、8年経った段階で考えているストーリーの半分を過ぎたところですね(笑)、こういうものです。ただ、人気が落ちれば10年のところを3年、2年で打ち切りなんていうこともあります。人気を維持しつつ、やれるところまでやろうと思っています。

想定は常に崩れます。モチベーションを本当に長い時間保っていなくてはならない。私のやり方は最初にある程度物語の骨格を作ってからやるのですが、人によってはその回その回を考えて描いていく人もいます。その方がモチベーションを維持しやすいですから。いま、『ヴィンランド・サガ』が本当に面白いのかどうかわからなくなっています、ゲシュタルト崩壊ですか(笑)。

平本 面白いです!!

幸村 あはは。ありがとうございます。

平本 それは、絶対に面白いと自信を持って言います。なんか不思議な状況ですね(笑)。

幸村 自分自身は、かつての自分を信じて、この着想を得たそのとき、確かに面白いと思った自分を信じて描くしかないです。

平本 なるほど。そのゲシュタルト崩壊を起こし始めたのは、描き始めて何年目くらいですか?

幸村 第2、3話くらいですかね。

平本 早い!!

幸村 あはは。

平本 2、3話ってここら辺ですよね。(コミックのページをめくる)

幸村 そうです(笑)。もうその頃には、これ面白かったんだっけと思い始めて。

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