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東京を巡る対談 月一更新

幸村誠(漫画家)×平本正宏 対談 『2001年宇宙の旅』から12年経って

<手を動かしていればいつか終わると信じて>

平本 この連載をスタートさせたとき、こういう漫画をやってみたいという着想を得てからどれくらい経っていたんですか? 『プラネテス』連載中からアイディアはあったとおっしゃっていましたが。

幸村 もう2年は経っていましたね。もう耐えるしかないと思います。よく新人の漫画家に聞かれるのですが、原稿を描いているうちにいま目の前にあるこの描いている漫画が面白かったのかという自信が持てなくなってしまい、時間が経てば経つほどモチベーションが下がって、他のことがやりたくなってなかなか一本が上がらなくなる、どうしたらいいかと。何か方法があれば僕もするのですが、知っている限りでは耐える以外には方法はありません。これは面白かったはずだ! っと言いながら描くしかないんです(笑)。

平本 そうなると連載するということは、定期的に描くということだけでなく、モチベーションを保っていく精神的な作業が必要なんですね。

幸村 だから、気休め、気分転換をしないと耐えられないと思います。

平本 ちなみに、日常生活はどのようなバランスで過ごされているんですか?

幸村 大体、昼間に子供や家庭のことをやって、夜にストーリーを作ったりします。お話ができると、スタッフを呼んで、家庭の方は奥さんにお願いして、短期間にみんなでガーッと原稿を仕上げていきます。この仕上げの作業に大体2週間かけます。朝10時に来てもらって夜10時まで、このときはみっちり作業します。

平本 話を作るときは一人で?

幸村 そうですね。

平本 結構長く考え込むこともありますか?

幸村 そうですね、夜中ごろごろ転げ回って1~2週間かけてお話を作りますね。

平本 なるほど、そうやってこのストーリーと緻密な絵が出来上がるんですね。

幸村 僕はわがままばかり言って、ここに100人の兵隊を描いて欲しいとか言うと、スタッフが描いてくれるんですよ。楽で楽で(笑)。

平本 あはは。特にここはスタッフががんばってくれた、という所はありますか?

幸村 そうですね、13巻の89話の1ページ目の沢山の兵隊はスタッフが描いてくれました。これくらいですと1日しないで仕上げてくれるんですね。


『ヴィンランド・サガ』13巻89ページ

平本 うわー、すごいですね。

幸村 僕が描いたのはメインキャラクターですね。スタッフはいま3名いるんですが、僕より全然うまいです(笑)。スタッフとの作業のときはもうけたたましく、黙々と作業していきます。ネームの段階で、ストーリーやアングルは決まっていますので、あとは手を動かしていればいつかは終わると信じて作業していきますね(笑)。いまのスタッフとは付き合いが長いのでもうツーカーです。彼らがいなかったら漫画なんか描けない。

平本 その2段階の作業工程は映画音楽の作曲に似ているところがありますね。映画音楽も色々なパターンがありますが、明日幸村さんが対談される真木よう子さん主演の『さよなら渓谷』の音楽は4つの核となるメロディを作って、その4つのメロディを使った曲を全部で15曲書きました。この4つのメロディを作ることがとても重要で、ここは監督と相談しながら細かく打ち合わせていくんです。それぞれのメロディには、主人公のテーマとか、愛のテーマとかそういうテーマ設定がされていて、どういうシーンで使うかを監督に伝えられ、その上でメロディを書いていきます。このメロディ作りはネーム的な感じですね。僕も転げ回って作りました、昼間でしたが(笑)。

このメロディができると、シーンに合わせて編曲していきます。作業的には、具体的に「このシーンからここのシーンまでにこのメロディ」と監督から伝えられ、一番いい編曲は何かを考えていく。ここはもうガンガン作業していく感じで、漫画の仕上げ作業に近いものがありますね。ギターのソロにしようとなった場合、ギタリストにメロディと流れだけ伝えて好きに弾いてもらう場合もありますし、こちらで細かく楽譜を書く場合もあって、シーンに合わせて一番いい音を作っていきます。

幸村 印象をまず作るということですね?

平本 そうですね。メロディ作りの段階で映画の本質に触れられれば、その映画の音楽としていいものになれますから、そこがうまくいけば後は各シーンでどう表出するかを考えればいいと思っています。

幸村 一番最初ですよね、何もないとこからどうするかが一番つらいというか、大変で、出るときはスルッと出るんですけど、出ないときはいつまでも出ない(笑)、ありますよね?

平本 全く同じですよね。だから本当にどつぼにハマってしまうと、2日くらいピアノとコンピューターの前でボーッとしてしまって。

幸村 そういうのありますね。そのなにもしないで座っているところを子供に見つかると、「お父さんがまたサボっている」って言われるんです(笑)、「サボっているんじゃないんだよ!」って。あはは。

平本 それで気分転換に散歩すると、また「サボっている」と言われ(笑)。

幸村 あるある(笑)。

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