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東京を巡る対談 月一更新

幸村誠(漫画家)×平本正宏 対談 『2001年宇宙の旅』から12年経って

<自分が大きく変わるような経験>

平本 僕の周りの友人もみんな『プラネテス』好きなんですよね。『プラネテス』好き、宇宙好きの友人たちには自慢をしてきましたから(笑)。

最終話はいつ頃考えられたんですか? 木星を目の前にして、『プラネテス』のこれまでのエピソードを思い返させる一話になっていてすごく好きなのですが。

幸村 遠くまで来たなと思いますよね。確か、その前の一話を描き終わるまでどうなるかわからなかったと思います。毎話毎話、まだ続けるんですか、どうしようという感じでしたので。もう描けることがありませんという中で、この話ならちょっと描けるかなというのを探しながらでした。一話一話繋いでいく、読み切りの連続のような感じでしたね、いつ終わってもいいっていう。そうしたらあれよあれよという間に、4冊も単行本を出させて頂きまして。

平本 4巻を読み終わったときに、もっと続きが読みたいと思いましたから。

自分にとって、音楽、漫画、映画、舞台など大きな影響を受けたものがいくつかあるんです。ターニングポイントというか、その作品に接したことで自分の中が大きく変わるような経験になったものが。『プラネテス』は間違いなく自分にとって大きな作品で、いま宇宙をテーマにオペラを作ろうとしているのも『プラネテス』を読んだ経験は大きいと思うんです。なんか思いばかりお話ししてしまっていますね(笑)。

幸村 本当にありがたいです。私、経験でなんとなくわかってきているのですが、プラネテスを好きだと言ってくださる方は真面目な方が多いですね。

平本 あ、そうですか! なんか褒めて頂いたようで嬉しいです(笑)。

幸村 様々なこと、社会のこと、宇宙のことに真面目に頭を働かせる方という印象があるんです。手前味噌なことじゃなくて、他にお会いした方などを見ていてもそういう傾向にあるんじゃないかと思います。それ考えなくても明日のご飯は食べれるよ、ということを一生懸命考える方が多いですね(笑)。

平本 漫画でもそういうシーンが出てきますしね(笑)。

幸村 僕はそういう方が好きなんです。僕自身そういう癖がありますので、今日やらなくてはいけないことが沢山あるのに、どうして人間は生まれてきたんだろうと考えてしまったり(笑)。でも考えずにはいられない。

平本 お察しの通り、僕もそういうタイプです!

幸村 やっぱり(笑)。

平本 あはは。

『プラネテス』が終わって、『ヴィンランド・サガ』がスタートするまではどうされていたのですか? 宇宙から一転、1000年代の北欧の話になるわけですが。

幸村 『プラネテス』が26歳のときに終わりまして、『ヴィンランド・サガ』が始まったのが28歳のときですから、2年間準備期間がありましたね。その間に読み切りを描いたりしまして、それからはもう8年間『ヴィンランド・サガ』を描き続けています。『プラネテス』を終わらせるときに『ヴィンランド・サガ』をやろうと固く決めていたので、資料の読み込みと取材をしていました。あと、結婚もしました。正直2年は長過ぎましたね。

平本 ということは、もう2年後に連載が決まっていたのですね?

幸村 いや、何も。僕がやると決めていただけです(笑)。何か約束があるわけではなく、勝手に資料読んで、勝手に取材して。そうしたらちょうど少年マガジンさんが載せてもいいと言ってくださって。でも、よく考えてみたら、あれ掲載の場所がなかったら丸損だったんだよな(笑)、あはは。

平本 全く確約なく?

幸村 でも、漫画なんてそんなもんですよ。

平本 そうなんですか。

幸村 漫画は伝統的に口約束の世界です。単行本が作られるという段階になって、単行本の販売や肖像権に関する諸々を出版社に委任するという契約書を漸く交わすんです。それまでは原稿を描こうが、雑誌に載ろうが全部口約束です。事実上のビジネスなんです。なので何かあったときでも法的に対処するのがなかなか難しいと思います。でも、それで半世紀以上やってきているんですね。

漫画家は現在原稿料をもらってプロとして仕事をされている方が5000~6000人、その予備軍は10~20倍いると僕は予想しています。プロとして描く以上、読んでもらう人に「これなら自分でも描ける」と思わせるようなものを出してはいけない、おいそれとは追いつかないようなものを描くのがつとめだと思います。それを戒めに仕事をしようとすると、仕事が遅くなって、時々休んでしまったりして(笑)、あはは。

平本 なんか話が変わってきましたね(笑)。

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