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東京を巡る対談 月一更新

田中雅臣(天文学者)×平本正宏 対談 千億の星を眺めながら



<太陽はいつ終わるのか>

平本 なるほど。実は今『美しい元素』(Gakken出版)という本を読んでいるんです。元素って学校の授業で色々と暗記したりしたけどその実態を目にしたことがあるものって意外に少ないと思いまして、それでどんなものか見てみたいと思って手に取ったのですが、そもそもこういった元素も全部超新星爆発の時に放出されているんですよね?


田中 宇宙が始まった時って水素、ヘリウム、あとほんのわずかなリチウムだけしかなかったんですよ。他の元素は星の中で作られるんです。例えば太陽がなんで明るいかっていうと、水素をヘリウムに核融合反応させて、そこからエネルギーが出てきて、エネルギーが光となってるんです。そして太陽はいつか水素を使い尽くしちゃいます。そうすると明るくなれないんですけど、今度はヘリウムが核融合を起こして炭素とかが出来るんですね。そうやって核融合の段階が変わっていく。今の段階で太陽はまだそのステージには至っていませんが、いずれそうなります。


平本 それはいつぐらいなんですか?


田中 多分50億年後ぐらいですね。そして、それが星の寿命が尽きる辺りです。太陽は生まれてからすでに50億年ぐらい経っていて、これから50億年後ぐらいには水素を使い尽くして、ヘリウムが核融合を起こして、そのうち寿命が終わるんですね。


平本 太陽は最後に爆発しないんですか?


田中 爆発はしないです。物理でいうと温度と密度が足りないっていう感じですかね。もっとぎゅうぎゅうに星を潰してやれば、炭素とか酸素が核融合でくっ付いてマグネシウムやケイ素までいきます。


太陽よりも10倍ぐらい大きな星は宇宙に結構いて、そういう星では核融合で炭素より先の元素、マグネシウムや鉄が出来るんです。そうなんですけども、鉄って元素の中でも一番安定な元素でして、その後核融合できないんですよ。鉄でいることが一番幸せなんですね。だから星は鉄まで元素を作ったら、その後は作ることが出来ないんですよ。そうするとどうなるかというと、星の中ってものすごく高温で、その中で鉄はバンッて小さな元素に割れてしまうんですよ。これって核融合の反対なので、熱を吸ってしまいます。


星って自分の重力と核融合で戦っているんですよ。重力が下(星の中心)に行くのを核融合のエネルギーで押し返しているようなイメージです。星はそうやって結構絶妙なバランスで保たれているんですけども、いきなり鉄が熱を吸ってしまうと、星がグシャって潰れてしまうんですよ。グシャって潰れてしまうと、ものすごく堅い芯が出来て、その反動で星が破裂してしまうんですよ。


平本 それが超新星爆発なんですね! ということは超新星爆発が起こっている中心には鉄があるということですね。

田中 その通りです。鉄が壊れることが超新星爆発を起こす引き金になっていて、それがぎゅうぎゅうに詰まって、跳ね返ることによって星にあった元素が宇宙空間に飛び散るんです。

平本 そう考えてみると、星自体は結構バランスがとれているんですね。一カ所にすごく強い力が加わると、もう一方でものすごく強い反動が起こるわけですから。


田中 いつも星自体の重さによって核融合で出せるエネルギーが決まるので、星は常に安定になれるんですよ。


平本 それはなんでそういう性質を持っているんですか?


田中 おっ!なんででしょう。


平本 一方に負荷がかかるということは、どちらにも崩壊する可能性を秘めているわけじゃないですか。だけど常に安定しながら、宇宙に存在しているわけですよね。逆を言えば中間状態でない、どちらか一方に引っ張られている星はあまり無いということですよね。


田中 核融合のしやすさは原子核の物理で決まっているんですけれども、それが我々の宇宙の法則とちょっと違ったとしましょう。そういう宇宙の水素は今の宇宙の水素よりも核融合を起こしにくい、となった時に何が起きるかというと、太陽では重力の方が強くなっちゃうわけです。重力の方が強くなると、より星が潰れますので、核融合を起こしやすくなります。そうすると、いくら物理法則が違う宇宙でもいつかは核融合が起きて、また釣り合いますよね。そういう意味で僕たちが観られるのは安定な状態が多いわけです。


平本 つまり宇宙の初期設定が違っても、結局は同じような状態になるということですね。


田中 同じ状態とまではいかないですけど、どこかに安定点はあるんです。宇宙にいたらやっぱり安定点を観ちゃう。


平本 元素、原子レベルでもその安定点が無いと、形ができずに崩れちゃうということですよね。


田中 なので、安定点が無くなった時の分かりやすい例が超新星爆発なんですよ。それはやっぱり一過性のものなんです。安定しなくなるとバーンって爆発する。長い目で見ると、超新星爆発はやっぱりレアなケース、レアな状態なんですね。ほとんどの星が何事も無いように輝いているのは、自然の理なんです。


平本 ということは超新星爆発というのは、やっぱり宇宙の中では意外な状態なんですね。


田中 だからこそ100億年の宇宙の中でたかだか僕らが生きる1年の間で消え去っちゃったりするんですよね。それはやっぱり意外なことだから。


平本 でもそれが年間500も観測される。


田中 それは宇宙にはたくさん星があるからですね。例えば、私たちの住んでいる銀河には数1000億の星があるんですが、その中で爆発する星は100年に1個くらいしかありません。だから、やっぱりものすごくレアなんです。ただ、科学技術がすごく進んで、僕たちの銀河じゃない銀河もすごく良く見えるようになったので、そういうところを細かく観測できるんです。 

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