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東京を巡る対談 月一更新

田中雅臣(天文学者)×平本正宏 対談 千億の星を眺めながら



<超新星爆発でできた中性子星が生み出す金>

田中 先程の元素の話なんですけど、実は鉄より重い元素の起源って本当に分かってないんですよ。金と銀とプラチナがどこから来たのかとか。


平本 えっ、太陽では作れないんですか?


田中 作れません。最近このことも研究しているのですが、全然分かっていないんですよ。ここ30年くらい超新星爆発で金、銀、プラチナ、あと残りの元素も作られてきたと言われていたんですけど、その説も歩が悪くなってきているんです。


さっき星が潰れる時にちっちゃい核が出来るって言いましたよね?その核が中性子星って呼ばれる星になります。これは超新星爆発の中心に残っているものです。この大きさというのが直径10キロくらい、大体新宿駅から東京駅までの距離程度しかない大きさの天体なのですが、宇宙の中で見えるんです。


平本 ものすごく強い光を出しているわけですね!


田中 はい。この中性子星はすごく強い磁石になっていて、それによってすごく強い電磁波を出しているんです。先程大きさは直径10キロくらいといいましたが、それに対して重さは太陽くらいあります。1立方センチ辺りの重さがなんと1兆キログラムもあるんです。


平本 うわー!ものすごい重さ、密度。


田中 地球上の人間の体重を足しても0.35兆キログラムぐらいしか無いので(平均体重を50キロとしたときの約70億人分の重さ)、かなりの重さですね。重力を計算してみると、地球を1とすると、月は6分の1、そしてこの中性子星は2000億(笑)。ものすごい重力で、もし人間がいたら瞬時にぺちゃんこですね。


で、この中性子星が対になってお互いを回っている場合があるんです。強烈な重力源と強烈な重力源がぐるぐると回っていて、いつか合体するんですね。今までは難しかったのですが、最近、こういう計算をやっとコンピューターで出来るようになりまして、それで計算をしてみたら、この対になってぐるぐる回る中性子星の合体から金がたくさん出てきたんです。


平本 すごい! でも、なんで金が出来たのですか?


田中 さっき超新星爆発の説明のとき、鉄で止まってしまうのは鉄が一番安定しているからだと言いましたよね。原子の番号が上がっていくということは陽子が増えているということで、陽子って+(プラス)の電気があるので、くっつけるのが大変なんですね。なので、鉄に何か加えるにはとにかく中性子をバーッと浴びせないといけないんですよ。中性子は電気を持っていないので、付くことは付くんです。でも陽子に中性子をたくさんくっつけても、まだ鉄のままです。それは鉄の定義が陽子の数が26個だから。中性子をたくさんくっつけた鉄は鉄の同位体ですね。ですが、そのたくさん中性子を持った鉄ってものすごい不安定なので、中性子が原子核の中で陽子に化けてしまうんです。なので鉄を超えるには中性子をむちゃくちゃ浴びせてしまえばいいんです。

平本 それはもう、むちゃくちゃものすごい量なわけですよね?


田中 ものすごい量を、しかも一瞬のうちに浴びせないといけないんです。ですが、そんな環境って宇宙にもほとんど無いんです。そこで都合がいいのが中性子星なんです。だけどこういう計算が難しいんです、重力があまりに強いから。ここは、アインシュタインの一般相対論の世界に当たります。


例えば太陽の周りに地球が回っている場合、地球のことはあまり考えなくていいんですね、太陽があまりに重たいから。これがお互いに太陽と太陽だったらそれぞれの重力を考えないといけないんです。では、それを中性子星に置き換えてやっていいかというと、あまりに重力が強いので、時空が歪んじゃっている。なので一般相対論を加味しながら、二つの動きを追い続けないといけないんですよ。それがむちゃくちゃ難しくて。でも、これは僕ではないですが日本の研究グループがすごく得意にしている分野なんです。昔から中性子星で金が出来るというのは分かっていたのですが、ものがまき散らされるかどうかというのはちゃんとシュミレーションしてみないと分からなかった。最近になって、ちゃんとまき散らされるというのが分かってきたんです。


平本 その事実はいつぐらいに分かったんですか?


田中 まき散らされるというのが確定的になったのは、人によって意見が別れますけど、去年ぐらいですね。


平本 おお、それは最近ですね!


田中 なんで確定的になったかというと、そういう天体なんじゃないかというのが去年観測されたんですね。まだ1例しか無いので分からないんですけども、去年から信じる人は増えてきました。


平本 じゃあ結構現実的になってきたんですね。


田中 この金を中性子星で作る説の弱点は、本当に頻繁に起きるの?ということです。去年の観測例があった後でも、起きてることは認めるけど、そんな頻繁には起きないんじゃないのかと言われています。でも多分これからもっと観測されると思います。中性子星は重力があまりにも強いので、中性子星どうしが合体すると重力波が出るんですよ。ちなみに、どれぐらい重力波が強いかというと、1メートルの長さがちょびっと変わるんですよ、時空が歪んで。そのちょびっとは、0.0000…と0が23個付くくらい変わるんですね。これは時空のゆがみとしてはめちゃくちゃ大きくて。


平本 それだけしか歪んでないように見えますけど。


田中 はい、全然歪んでないですよね。地球と太陽の間が原子1個分縮んだくらい(笑)。それくらいしか違わないのに、もうすぐ捉えられようとしているんですよ。


平本 そんな微量の歪みをよく捉えられますね。


田中 それはですね、大雑把には、レーザーを打って、反射して返ってきたものを観測するんです。もし空間が歪んでいれば、返ってくる時間が少し変わりますよね。こういう装置が、今岐阜県の神岡で建設されています。太陽と地球の間の長さが原子1個分変わるというのはとてつもなく小さいですが、実は原子10個分くらいの歪みだったら今でも検出できているんですよ。

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