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東京を巡る対談 月一更新

田中雅臣(天文学者)×平本正宏 対談 千億の星を眺めながら



<宇宙物理学者の日常>

平本 せっかくなので、田中さんが普段どんな生活をされているのかをお聴きしてみたいと思います。研究者の生活ってどんな感じなんですか。


田中 人によりますけど、僕は大体7時に起きて、7時半ぐらいにオフィスに行きます。家からオフィスまで自転車で10分くらいなんですよ。それで8時くらいから研究を始めて、夜の8時くらいに疲れたら家に帰る、やっぱり物理的な体力の限界があるので。あと体力作りも兼ねて、ここ数年は走ってます。明らかにがんばりが効かなくなってきたので。。。


平本 昔はもっと研究時間が長かったんですか?


田中 昔は2日に1回しか寝てなかったです。むちゃくちゃしてました。


平本 すごいですね。ずっとこもっていたんですか。


田中 そうですね。1日は48時間だと思ってやってました。それぐらい好きですね。寝られないです。今は意識的に12時間くらいでやめないと、寝られなくなってしまうので。


平本 僕は自分自身でいい状態、集中力がある状態をできる限り長く確保しようと心がけています。長時間ダラダラするだけなのは嫌いなので。締め切り前は別ですが、そう言うときはハイテンションと高い集中力で長時間過ごせますからダラダラはしませんし。


田中 そういうのはあります。調子が乗らなかったら、さっさと切り上げようとか。


平本 そういうのって何を基準にしていますか。



田中 僕は割と何も基準は無いです。気持ちが乗らないときってありますよね。そういうときは、乗らない時にしかやれないこと、頭を使わなくてもいいことをやっています。そして、一番調子のいい時は新しいことを考えたり、問題を解決することに頭を使う。

平本 そういう一番調子のいいとき、新しいことを考えたりするときの環境はどういう感じですか?パソコンやiPadなど何かデバイスは使っているんですか?


田中 家じゃなければどこでもいいですね。オフィスに行ってもいいですし、たまにカフェとか。スターバックスにはよく出没しています(笑)。でもオフィスじゃないことが多いかもしれません。オフィスにはやらなきゃいけないことがあって、そういうのは目の前に無い方がいいですから。だから、本当に頭を使う時は何もデバイスを持たないことが多いです。


新しくものを考える時間をなるべく確保したいというのはありますね。移動することが多いので、新幹線の中は結構貴重な考える時間です。


平本 新しいものを考えるっていうのはいいですよね、そういう時間が本当に大切なのはわかります、音楽も一緒ですから。しかもそういうときって、何も無いだろうとされているところ、全然予想もしていなかったところに大きなヒントを見つけたりしますよね。


音楽もこれはないとか、無理だと言われているところに全部あるんですね、新しい時代のヒントって言ったら大げさですけど。


田中 そういうのに手を出しますか。


平本 出しますし、ズッと出していたいです。それこそ全部に手を出したいですよ。


音楽は作るのが簡単だから、完成させるのにかかる時間がそもそも短い芸術なんですね。絵とかは手を動かす作業工程を積まなければいけないので完成に時間がかかりますが、音楽って思いついたら、それこそうまく行くと5分の曲を5分で完成させることもできる。時間芸術であるので実体はないじゃないですか、構築するのに最低100分かかりますっていうものでもないので、上手くいけば短時間で済むんですよ。そういう意味では一番数を作れて、浮気もしやすいんです。次から次に、違うことを試したり、作業したりできる。今しか生きれない、もっと言えば今の時代を生きているわけですから、手を出さなきゃいけないものにはとことん手を出したいと思っているんです。


田中 なんか通じるものを感じましたね。音楽も時間軸が重要ですもんね。実は宇宙で時間軸が重要になるような、見ているうちに変化するものを研究している人はあまりいないんですよ。


平本 僕は逆に研究者皆さんが時間軸を気にしているのかと思いました。


田中 時間軸を気にしている人はマイノリティですね。やっぱり宇宙で天体はほとんど変動しないので。太陽の表面とかはすごいレアなケースです。音楽で時間軸を気にするのは当たり前ですよね。


平本 だからその時間軸への挑戦というのは、数多の作曲家がしてきていることなんです。時間というものをどう扱うか、それこそワーグナーが3時間~4時間のオペラを4夜連続で上演したり、逆に現代音楽では10秒とか20秒とかで終わる作品を書く人がいたり。そういう時間に対する発想というのは、やり尽くされたくらいされています。それくらい時間というものを気にしている。


田中 誰もやっていないことって何でしょう?


平本 具体的にこれとは言えないですけど、まだまだ沢山あると思います。研究と同じところかもしれないのですが、テクノロジーによって出てくる発想は時代と共に変わっていきます。こういうことができるのなら、それを音に用いたらどうなるか? そういうことから音が発想されていくとそれは自ずと誰もやってこなかったことに繋がる。だからいまコンピューターで音楽を作ったり、発想したりするのが面白いですけど、もし量子コンピューターが出てきたらすぐに飛びつくと思います(笑)。そうしたら、また新しい音響や時間軸が生み出せるかもしれない。


田中 時空の歪みとか(笑)。


平本 時空の歪みとか、すごくいいですよね(笑)。それが音で表現できたらどんなに面白いかって思います。と話しているなかでも、どうやったら表現できるか色々考えていますが(笑)。


田中 いやー、そう考えると僕らの仕事は簡単ですよ(笑)


平本 いやいやいや(笑)。だからこちらは宇宙を見るトキも時間軸で見ようと思うんですよね。最初に宇宙が誕生した時に1秒も満たないうちに色んなことがワッと起きて、その後138億年かけて今の宇宙になって、その中でも80年くらいしか生きない人間がいる地球規模の話があったり、何千万年、何億年全く動かないようなことがあったりとか、そういう時間軸の動きの差で見ると、宇宙って面白いなって。


田中 天文学の研究は個々の研究の積み重ねで、例えば天文学の雑誌に宇宙全体のことを書くときは、えいやっと時間軸で書くんですけど、各研究者はある一時一時を研究していて、やっぱりスナップショットでしか見られないんですね。絵画と同じですよね(笑)。


平本 人の一生に比べたらあまりにも大きな時間ですからね、お話を伺うとそれは当然なのかもしれない。


最後に田中さんが今回東京を感じる場所として新幹線のホームを選ばれた理由についてお聞きしたいと思います。



田中 超新星を観測しているので出張が多いんです。出張して帰ってくると、新幹線からホームに降りるので。東京を感じる場所としてふと思いついたのが、このホームに降りる瞬間だったんです。

平本 新月の時は必ず長野か岡山に行くとお聞きしましたが、その習慣は何年くらい続けられているんですか?


田中 3年くらいですね。なので面白いのは東京で空を見上げる時はいつも月が明るいんですよ。新月の東京ってあまり体験してないんです。


平本 そうなんですか。


あとハワイでも観測されているそうですが、ハワイに行くようになったのは?


田中 学生の頃から行っていたので、9年くらい前からですね。


平本 ハワイの頻度はどれくらいですか。


田中 1年に1回くらいですかね。望遠鏡を使いたい人がたくさんいるので、アイディアがダメと言われたら行かせてもらえないんですよ。だから、余り突拍子もないことばかりやっていると、行けなくなるかもしれないです(笑)。


平本 でもその突拍子もないことが、突破口になったりするわけですし、本当に面白いですね。


今日はありがとうございました!


田中 ありがとうございました!


田中 雅臣 / Masaomi Tanaka

天文学者。
1983年愛知県生まれ。国立天文台・理論研究部 助教。
2009年東京大学 大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程修了。
超新星爆発、中性子星合体など、宇宙で起きる爆発現象を主に研究している。
2012年第28回井上研究奨励賞受賞。
著書に「元素はいかにつくられたか ー超新星爆発と宇宙の化学進化ー」(共著、岩波書店)がある。

撮影:moco  http://www.moco-photo.com/

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