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東京を巡る対談 月一更新

田中雅臣(天文学者)×平本正宏 対談 千億の星を眺めながら

<宇宙の美しさと超新星爆発>

平本 超新星爆発が観測できるようになったことで、宇宙に対する理解が大きく変わったということはありますか?


田中 1年に10個の時代と1年に100個の時代とではあまり変わらないと思うんですけども、0から1になった時はやっぱり大きいですよね。例えばそれは400年前に起きました。本当に肉眼でも見えるほど明るく星が爆発した時があって、それはヨハネス・ケプラーの師匠であるティコ・ブラーエという人の時代なんですけど、それは宇宙観を変えたと思います。ほうき星以外の星は基本的には止まって見えるので、考え方は変わったと思います。日本でも藤原定家の『名月記』に記されているんですよ。


(田中さん、カバンからMacを取り出す)


平本 おっ、Macなんですねー。


田中 ふふふ(笑)。


(『名月記』の中で)当時はお客さんの星と書いて「客星(キャクセイ)」というのが今までに空に無かった星を指します。これが超新星爆発と彗星のことですね。1006年に見えた客星の場所の記録も残っていまして、今その場所を見ると、超新星爆発がまだ浮かんでいるんですよ。

平本 へー!そんなに長く残骸って存在するものなんですか?


田中 確かにさっき超新星爆発が1年位で消えてしまうと話したんですけど、これは私たちの銀河系の中にある例ですので、10000年ぐらいずっと見え続けます。これが面白いんですけれど、10年間時間をあけて観測した精密な写真を見ると、残骸が広がっているのが分かるんです。実際は秒速5000キロメートルくらいのスピードで広がっていて、これは地球を1秒で横切るくらいのスピードです。


平本 宇宙の色々な写真を見てていつも思うんですけども、なんでこんなに美しいんだろうなと不思議なんですよね。


田中 これはですね、あまり言っちゃいけないと思うんですけども、いかに綺麗な絵を作るかってだけの話なんですよ(笑)。


平本 あ、そうなんですか!


田中 皆さんに宇宙について興味を持ってもらいたいですし、頑張って写真を綺麗にしてるんですよ。僕たちが使ってる普通のカメラって自動的にカラーになるんですけど、宇宙を観測する時にその機能は無駄なので、例えば僕が木曽観測所で実際に撮った画像は、一色の白黒だけなんですよ。


平本 何を処理したら僕たちが見ている綺麗な写真になるんですか?


田中 基本的には3色の合計ですね。RとGとBに対応するものを別々に撮って、それを重ねるというわけです。そうなんですけど、ここからは芸術の世界でいかようにもなります(笑)。




平本 そういう写真を作る人って研究者、それともアーティスト?


田中 NASAとかでは専門のアーティストがやっていると聞きました。


平本 その人達はどういう目的で雇われているんですか?


田中 基本的には広報、パブリックアートリーチですね。


平本 ただ研究データを出すだけではなくて、興味を引くような写真にヴィジュアライズするようにということですね。小さい頃から宇宙に行ったらこんな写真みたいなものが見れるのだと思っていました(笑)。


田中 肉眼ではああいう風には見えないんですよ。例えば先程お見せした超新星爆発の写真はX線に色をつけて作ってるんですね。なので本当は目では見えないんです。トリックというか。実際NASAのページでは何色は何を表している、と記入されています。一般のサイトとかでは記載されていないので、分からないですよね。美しく見えるように処理しているのは間違いないです。


平本 でも肉眼で見えなくても存在しているものを拾っているわけですから、脚色とはちょっと違いますよね。


田中 そうですね。色の付け方とかは恣意的なんですけども、やっぱり飛び散ってみえる星は綺麗ですよね。

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