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東京を巡る対談 月一更新

石川遼子(太陽研究者)×平本正宏 対談 いちばん身近な宇宙天体、太陽

<身近なのに未知な天体、太陽>

平本 こういう太陽で起きているような現象は地球上では起こりませんか?

石川 オーロラは近い仕組みの元に見ることができますが、これほどの現象は起こりませんね。

平本 とても不思議な動きですよね。

石川 X線と紫外線で見ることでまた全然違った姿を見ることができるんです。

平本 なんでX線や紫外線だと違った姿になるのですか?

石川 X線ってエネルギーが高いじゃないですか、普通エネルギーが高いと通過する力も強いので体内が見えるというのがレントゲンですけど、これは逆に太陽から出たX線を見ることで強いエネルギーの光の動きを知ることができるんです。

X線で見えるということはそれだけ太陽が放つエネルギーが高いということで、その温度の高い構造を見ることができるんです。

平本 「ひので」はX線で撮影しているということですか?

石川 「ひので」は3つ望遠鏡を搭載していて、可視光線、紫外線、X線の3つで太陽を見ることができます。

平本 ということは、X線やガンマ線など、見方を変えることで太陽の違った姿を見ることができるということですね。

石川 基本的に太陽の表面は6000度で、その上空が彩層と言われているところでそこが10000度くらい、さらにその上空がコロナといわれている100万度くらいで、上に上がっていくとドンドン温度が上がっていきます。その温度に応じて、波長に応じて見えてくるものが違うわけです。天文学はなんでもそうで、波長を変えると違うものが見えてくる。そこがすごく面白いですね。

コロナ加熱問題ってご存知ですか? 太陽の中心って核融合反応していて1600万度、そこから外側に行くとドンドン温度が下がっていきます。でも、表面から彩層、コロナと今度はまた温度が上がっていく。普通熱源が真ん中にあると外側に行くにつれ温度が下がっていく一方なのに、なぜ太陽は彩層とコロナで温度が上がるのか。それがまだわかっていないので、こういった観測がその解明に役立つ可能性があります。

平本 そうやってお話を伺うと、逆に太陽に関してはどれだけのことが解明されているのですか? とても身近な天体と思っていましたが、かなり未知な部分が多い印象ですが。もちろん未知数がどれだけなのかわからないので、かなりわかっている状態なのか、それともかなりわかっていない状態なのか、どうでしょう?

石川 天文学ってなんでもそうだと思うんですが、わからないことがあってそれを解明するために観測装置を作るんですが、大体いい観測装置を作って観ると、思ってもいなかったことが発見されてまたわからなくなる。だから観測の度に謎が深まっていく印象なんです。

いまはその観測ロケットの開発にも携わっています。「ひので」が打ち上がったときはまだ修士課程の1年生だったのでデータを解析するだけで、そのデータ解析で博士号をとりました。そのときに最新装置の恩恵に預かりまして、自分の知的好奇心を満たしつつ研究を進められたので、自分の手で新しい観測装置を作って研究をしたいというのがいまのモチベーションです。

平本 観測装置って新たなものが見れるものでないといけないわけですよね。前の精度よりも1段階も、2段階も上のものにしなくてはならないわけですよね、こうなるだろうという結果が想像ができるレベルでは意味が無いと思いますし。どうやって作るのでしょうか?

音楽のソフトウェアだと2種類あるんです。例えばピアノのソフトウェア音源なんかはいかに生のピアノに近いものになるかというのを目指します。手間やお金のかかる生ピアノをソフトウェアだけで、いかに本物に近づけるか。昔は鍵盤上のある音、例えばドと1オクターブ上のドをサンプリングして、その間をモデリング、つまりコンピュータープログラムで予想して音源を作っていましたが、いまはコンピューターの性能が上がり、全鍵盤の様々なベロシティを全てサンプリングしてしまって、それを音源にしている。こうなると鳴っている音自体は本物ですから、かなり高い水準の音が出せます。

逆に音を合成できるソフトウェア、つまりシンセサイザー機能のソフトウェアは、終着点がありませんのでいかにいい音、面白い発想のソフトウェアになるかを常に開発者は考えていると思います。最近の印象ではかなり飽和している気もしますが、それでもまだドンドン出てきますね。

石川 ただ闇雲に作ってもダメで、こういう新規性を持った観測装置を作れば、こういう現象を見ることができるだろうというバックグラウンドを理論的に推測して行います。沢山のお金を使うことなので、割としっかりそこはやりますね。

ただ面白いのは、実際にふたを開けてみるとそれほど単純ではなかったり、逆にもっと面白い結果を得られたり。だからそこには前回の観測結果から予測したことから、遥かに超えたものがそこにあるということなんです、絶対に。

平本 いま開発している観測装置は、何を狙いたいのですか? 話せる範囲で大丈夫なので知りたいです。

石川 かなりマニアックな話になりますけど(笑)。

先程映像でお見せした黒点と彩層のダイナミックな活動は、磁場が関係しているとなんとなく想像することができるのですが、この観測だけでは物理を議論することが難しいんです。いま開発しているのは、この彩層の磁場を測る装置を開発しています。

磁場っていうのは偏光、つまり光の偏りを測ることで動きを見ることができます。太陽から出てくる光は基本的には無偏光なんですが、磁場があると磁場の向きに沿って光の偏りが出るんですね。それを観測できると、磁場の情報を知ることができるので、もっと物理的に見ることができるんです。

先程の映像って、とてもインプレッシブなんですが、すごくもどかしいんですね。「これどうなっているんだろう?」という仕組みまではわかりませんから。だからこの仕組みを解明するためのプロジェクトをしているんです。

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