1曲目「unreplayable cyclone」について
平本 この曲は全員での即興演奏をレコーディングして、そのサウンドファイルを加工したり、シンセサイザーの音を足したりして作ったものですね。関口君だけ別の日に再度即興演奏をしてもらってレコーディングしているので、そのネタも使っています。そのときのネタは現代音楽的だったのでそこもうまく使って。
オープニングとなる曲なので、ガツンと来ることとテクナオケの世界観とか可能性が見えるようなものにしたいなと思って作りました。
元木君にミックスのときに、大分音の聴こえ方を細かく調整してもらっていますし、マスタリングのときにマスタリング・エンジニアの森崎雅人さんに世界が開けるように仕上げてもらっていますね。
2曲目「ASTROPERA」について
平本 宇宙をテーマにしたサウンドを作りたくて書きました。宇宙を飛び交う電波や交信のときに出るノイズをイメージしながらシンセのリフやノイズはKORG MS2000で、リズムトラックはKORG TRITONで作りました。ベースとスペイシーなコーラスだけProtoolsの内蔵プラグインXpand2を使っていますが、エフェクトでかなり加工しているので響きはかなりプリセットから変わっています。あと、間奏のチェロソロのバックで流れているパイプオルガンはVienna Instrumentですね。
TRITONで作ったリズムトラックですが、ほぼ全サウンドTRITON内のディストーションで歪ませてからProtoolsに録っています。デジタルな最新の宇宙感というよりは60年代の映画のようなアナログな宇宙感を出したかったので。
中村 最初のピピピピっていうサイン波が、サイデラでのマスタリングでとてもいい仕上がりになりましたよね。宇宙を電波が飛ぶようなイメージが伝わる。
吉田 この曲は私の中では「Singin’ in the rain」みたいなイメージなんですよ。だから声もEQでもザラッとしてもらって。雨降っていて暗いんだけど、上を向いて明るいイメージという感じですごく好きなんですよ。好きな曲ということもあって、レコーディングもすぐ終わりましたし。
最後のサビで中村さんがハモってくれていますけど、北欧の歌手みたいな仕上がりで結構好きです(笑)。
関口 真ん中にチェロのソロがあるんだけど、ここは平本さんのKaoss Padと僕のサイレントチェロで即興でセッションしたものになってます。ライブ感あるレコーディングで、2テイクくらいでOKだったはず。平本さんのKaoss Padいじる感じがプロの美意識みたいなものを感じさせてくれてよかったね(笑)。ボーカルとギターが全体に入っているのに対して、チェロは間奏しか入っていません。
元木 Kaoss Pad使うっていうアイディア自体、レコーディングの中で出てきたので特に準備はしていませんでした。Protoolsのセンド/リターンを使ってサイレントチェロだけの音とKaoss Padから出てくる加工された音の2つを分けて録音しました。ミックスのときはそのバランスとパンニングを調整しています。
ボーカルに関してはレコーディングしたものがいい感じだったので、ほとんどいじらずEQとリバーブで整えて、歌を生かすようにミックスしましたね。
平本 最初に7小節ノイズとサイン波だけのパートがあって、8小節目から曲の全体像が出てくるんですけど、この最初の7小節をカットするかどうかで中村君と相談したんだよね。で、話し合ってやっぱり7小節はカットしないで、その代わりに3曲目の「World Without End」を歌から曲に入るようにしたんです。
3曲目「World Without End」
平本 まだ関口君、中村君と3人のときに一番最初に作った曲。いままでの中でかなり変化もしてきたし、個人的な思い入れも強い楽曲です。このアルバムの方向性を形作っている曲でもあるから、ミックスは時間をかけていますね。たぶん全曲の中で一番時間がかかったんじゃないかな。
元曲は2006年に篠山紀信さんのdigi+KISHIN『クライハダカ』のために作った「my mind is going」っていう曲で、YouTubeで聴けます。
ノイズやエレクトロニクスサウンドはほとんどKORG MS2000とableton liveですね。MS2000の音をliveで加工したり、それにProtools上でエフェクトをかけたりと色々としました。liveはいろいろな裏技を知っているので(笑)。リズムも色々なところから持ってきています。ハープ、ティンパニ、ストリングス、チェレスタとオーケストラ楽器は全部Vienna Instrumentです。
関口 歌から入って、そのあとドローンのノイズが入ってくるんだけど、これをどのタイミングで入れるかは結構ミックスのときに考えたよね。
平本 そうそう。レコーディング前までは前奏があってからの歌の予定でいて、レコーディング後に歌から曲が始めるようにしたから、その関係でどのタイミングでノイズをのせていこうかはずいぶん悩みました。
中村 ギターが全部で5トラックくらいあるんですよね。間奏は2つ入れていて、ベース1つでも良かったけど、この曲の世界観を広げるためにあえて2本入れることにしました。
平本 中村君が間奏あけからギターをストロークでかき鳴らしてくれるんだけど、それが「ブルックリンパーラー」のライブのときメチャクチャ良かったんだよね。ドライブのかかって欲しいところだから、今回のミックスのときもその感じを出してもらうようにしました。
関口 ギターのチェロに対する合いの手感が絶妙でさすがだなと今聴きながら思ったけど、よく思い出したらギターを先に録っているから僕がすごいってことになるのか(笑)。
全員 あはは。いいねえ。
元木 シンプルに見えますけど、ミックスは意外と大変で、各トラックでいろいろやっていますね。特にベースの処理は大変だった気がします。
確かベースはProtoolsに内蔵されているプラグインのXpand2のベースを基本にして加工したものなんですが、ベースの立ち上がりが最初数ミリsec分緩やかなんです、パスッと始まっていなくて。それでミックスのとき、その数ミリsecを全部切り取ってベースのアタックをよくしてからミックスしています。また20Hzあたりまで低域が出ていて音量を奪ってしまっていたので、芯の部分を強く、それ以外はカットしてタイトなサウンドにしています。キックとのバランスも良くなりましたし、なにより力強いサウンドに仕上がりました。
平本さんの作り込みの仕方が高周波帯域を重視していたので、低域もそれに拮抗するように作りましたね。
あと、曲の中でもシーンによって各トラックのバランスがかなり変わります。
関口 一番最後の盛り上がるところは、シーンのスタートの時点ではチェロが小さくて、ボーカルを前面に押し出しているんだけど、最後の方に近づくにつれてチェロのボリュームを上げていってボーカルと同等な存在感にしている。
元木 ギターもトラックによってリバーブの種類やかかり具合を変えているので、どのシーンでも変化を楽しめるようになっていますね。
平本 そういえばチェロのレコーディングも時間かかったよね。「ブルックリンパーラー」でのライブのときのチェロがすごくカッコよくて、それみたいにしてと何度も録り直しをしてもらった気が・・・(笑)。
関口 本当に何度も録り直しさせられて、あの平本さんの微妙な顔はもう見たくないと思ったよね(笑)。