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東京を巡る対談 月一更新

幸村誠(漫画家)×平本正宏 対談 『2001年宇宙の旅』から12年経って

幸村誠(漫画家)×平本正宏 対談

収録日:2013年10月22日

収録地:池袋首都高ジャンクション

対談場所:服部珈琲舎

撮影:moco

<ピュン、ピュン!! と戦闘機が飛び交う世界>

平本 僕、初めて読んだSF漫画が手塚治虫の『火の鳥』の宇宙編だったんです。小学生の頃だったのですが、そのとき両親が手塚治虫と藤子不二雄の漫画だけは買ってくれて、その中のひとつが『火の鳥』でした。ただ、何度も読み返したのですが小学生にはちょっと難しいんですね。大学生のときに読み直したらやっと壮大な物語を楽しむことができたくらいで。それで、その『火の鳥』の次に読んだSF漫画が幸村さんの『プラネテス』だったんです。大学に入るくらいのときに友人に教えてもらいまして、「すごく面白い!」と一気にハマりました。本当に何度も何度も読み返しまして、いまも読み返します。だから僕にとっては「SF漫画といえば幸村誠の『プラネテス』!!」なんです。

今日はこうしてお会いできてお話までさせて頂けるので、なんというか興奮状態です(笑)。


『プラネテス』と『ヴィンランド・サガ』

幸村 うわぁ~、光栄でございます、本当に。

平本 こちらこそ、本当に。Twitterで幸村さんのアカウントを発見しまして、ご連絡させて頂いたら、返信頂いた上にフォローまでして頂いて。あの時点でかなりテンションが上がっていたんです。だから、この対談をして頂けるとなったときにはもう嬉しすぎて訳が分からなくなっていまして、今日は思いが強すぎて話が支離滅裂にならないように気をつけます(笑)。

幸村 いやー、本当に描いて損はないんですね(笑)。

平本 あはは。

『プラネテス』を読んだ後にも宇宙ものの漫画はいくつも読んだんです、それこそ『プラネテス』をきっかけにして。他の漫画も好きな作品は沢山ありますが、やっぱり原点である『プラネテス』に戻るところがありまして。デブリを回収する主人公という設定、登場人物たち、1コマ1コマの絵、そして、人間の愛の物語、話しだすと止まらなくなってしまいますが、とてもとても好きです。

特に3巻の13PHASE「風車の町」は大好きなんです。

幸村 わかっていらっしゃいますね(笑)。

平本 ありがとうございます(笑)。この話はいまこうやって見返すだけでもウルウルきちゃいますね。年取ったお父さんが一瞬若い頃に戻るとこなんか、本当にいいなあと。

幸村 彼もまだまだ若造だというとこですね。「風車の町」というこの1話は本当に、当時の担当さんと話していても「たぶん全話の中でもこれが一番よくできただろう」というくらいです。言いたいことがどうやら少しは形になったんじゃないかと思っていまして。

平本 なるほど。ということは、幸村さんご自身もこの話は気に入っている?

幸村 はい、そうですね。だから、今日は驚きました。「この話が好きだ」と言って頂けたので、描いた甲斐があったなあと(笑)。

平本 そもそも『プラネテス』はどうやって生まれたのですか? 宇宙やデブリに以前から興味があったのですか?


幸村 そうですね。元々僕、SFが好きで、SFの中でもハードSFと言われる科学考証などをガッチリ固めたものが本当に好きで読んでいたんです。特に好きなのが谷甲州先生の「航空宇宙軍史」というシリーズがあるんですけど、これが「こんなものがあるのか!」というくらい面白くて。高校の頃、ろくに学校にも行かずに公園でこの小説を読んでいました。『砲戦距離12000』という短編がシリーズの中にあるんですが、もし宇宙空間で戦闘艦同士がリアルに戦うことになったらということが描かれているんですが。頭で想像するのはガンダムの世界の艦隊が揃って「ピュン、ピュン!!」と戦闘機が飛び交うようなものじゃないですか。その『砲戦距離12000』で描かれた戦闘は、敵とこちらの艦の姿が見えないんですよ、ただレーダーでお互いがいるということは確認される。でも、月の軌道上にいて隠れているとか、秒速数キロで移動しているとか、お互いが認識できるギリギリの範囲で戦うわけです。そこまで達すると大口径レーザーなら届くので、なんとか相手の照準に入らないようにじわじわと動いていく。一度でも相手の照準に入ってロックオンされた瞬間に勝負が決まるんです。

大会戦のように人を集めた方が勝つという従来の戦いではなく、はじめて読むその描写に、「よくこんな世界観を理詰めだけで構築できるな」と驚きました。だから、SFの自分の世界を作る、しかも理にかなった世界を作る、そんなことができる人がいるなんてすごいなと思いまして。それで、やってみたいけど、僕文系だしな、と思いまして(笑)。

そんなことを学生時代に思いながら、20歳のときに守村大先生のアシスタントになりまして。それで、何か描かなきゃいけないなと、本屋でたまたま宇宙関係の棚を見ていたら『スペースデブリ』というタイトルの本が一冊だけあったんですよ。あとになって著者の方とお会いすることもできたのですが、その当時スペースデブリに関する著書っていうのはそれ一冊だけだったんです、日本中でそれ一冊だけ。しかも、その後すぐに絶版になって。

平本 じゃあ、いまはその本はもう読めないんですか?

幸村 いま復刊を望んでいるのですが。でも、本当にラッキーだったんです。もうその一冊を買わなかったら、僕はおそらくスペースデブリについて知ることは何年も遅れたでしょう。それを読んで「ああ、そうか。人間の活動するところにはどんなところにだってゴミが出るんだ」と思っていまして、ちょうどそのときに講談社の編集者が何か一本試しに描いてみないかと話をしてくださって。

平本 おおー、結構運命的に進んでいったんですね。

幸村 ええ。本当に偶然の偶然で。それで、そのとき読んでいたその『スペースデブリ』と今まで読んできたハードSF的なものをチャンポンして、こういうのはどうでしょうかと出したのが『プラネテス』の第一話なんです。たまたまそのとき持っていた材料をかき集めて、冷蔵庫の中のものだけで作った感じですね(笑)、あはは。

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