document

東京を巡る対談 月一更新

田中雅美(スポーツコメンテーター・シドニー五輪銅メダリスト)×平本正宏 対談 水の世界ーー重力からの解放

<まず最初に自分の心に聞け!>

平本 ということは、結構メンタル面が大きかったということですか?

田中 そうですね、メンタル弱かったんですよ。だから、アメリカでのコーチにも言われたんですけど、いつもいい泳ぎを求めていたんですよ、毎回どんなときも。だから、ちょっとでもそれが自分の理想と離れると不安になって、結果的にオリンピックはダメになるんじゃないかっていうようなことをいつも思っているんですよね。

それで、あるときも全然よくなくて、小さな大会なんですけど、そうしたらアメリカのコーチが、ゴールでタッチをしてからタイムを見る前に自分の心に100パーセントの力で今日行けたかを聞けと教えてくれて、それを考えてからタイムを見なさいと言われたんですよね。それを言われたことで、ストンと納得して。

いつも、タイムじゃなくて、日々体調が変わる中の100パーセントを目指せばいいんだって思ったんで、そこから毎日毎日寝る前に、今日はいい練習ができたかどうか自分に問うようにして、オリンピックまでの半年間毎日それをやっていったら、当日スタート台に立ったときにすごく気持ちがスッキリしていたんで、後悔ないなと思って。

平本 一日一日の自分と向き合って、その日々を積み重ねられたんですね。それって、競技を離れても使えますよね?

田中 そうですね。私の場合は、仕事一回一回を一生懸命向き合うっていうのは、確かにいまも自分の中にありますね。

平本 それは僕も使うようにしたいです。作曲って、進んでいるのか、さがっているのか分からなくなるときがあるんですね。1日10時間くらいかけてやったものをやっぱり納得がいかず破棄することもあるので、そうなるとものが残らないので全く進まなかったように見えることはよくありますし。

そういうことって後輩に指導されたりしますか?

田中 聞かれれば教えますけど、後輩達の方がメンタル的に大人ですから。私が現役でやっていたときよりも、遥かにみんな選手寿命も延びていますし。北島康介さんが31歳、寺川綾さんが28歳で、私の頃は24、25歳で引退の年齢だったので。いまの選手達は、みんな精神的に大人かというと、今回世界水泳で金メダルを取った萩野さんは色々なものに動じないメンタルをもっている。世界と戦うことと、日本で泳ぐことのどちらでも自分のペースが変わらなくできる。

平本 サッカーでもそういう選手増えていますよね。

田中 そうそう。動じない。

平本 後輩達を見ていて、そういうメンタリティを獲得した理由はどういうところだと思いますか?

田中 1つは、やっぱり歴史があってのいまだと思うので、北島康介という存在が出てきて、日本人でも世界でやっていけるということを意識改革したっていうのは、ひとつ大きな扉を開けたと思いますね。そのときにジュニアだった子達が、いま代表になってきているので、ジュニアのときにオリンピックで金メダルを取っている日本人を見ている、ああいう風に自分もなりたいと思う。

わたしたちのときにも鈴木大地さんがいたりしたんですけど、まだすごく雲の上の存在というか、憧れだった。いまの子達は、現実になっているので、そこは理由の1つだと思いますね。あと、メディアもいまものすごく入ってきているじゃないですか。私がはじめて日本代表になったときは、世界選手権はテレビで放送されなかったんですね。NHKさんや新聞記者さんが少し来ていたんですけど、インタビューされることに慣れていないから、カメラマンさんに「声が小さい、そんなんじゃ世界と戦えない」と怒られたりして、ショボンとなって(笑)。

平本 ええー!! 何歳だったんですか?

田中 15歳です。

平本 それはキツいですよね。

田中 そう。でも、それくらい慣れていなかったんですよね。いまの子達は小さい大会でも取材に来てもらえるので、自分が活躍すれば、当然取材もされるわけです。そういうのは、大きいかな。

さっきの話でもありましたけど、憧れを持つっていうのはすごく大事ですよね。こうなるっていう、確実じゃなくても、自分の中にイメージできる明確な像があることが大きいだろうなと思って。

平本 そうだと思います。日本の選手達が競技を頑張ってその姿を見せる、伝えるということがその道に進もうとしている後輩達を育てていくことになると思いますし、先輩はここまでやっているんだといういいプレッシャーにもなるんじゃないかと思います。

田中 後輩達にはいいプレッシャーになっているところはありますね。

平本 全力を尽くすことって、もちろん自分のためなんですけど、それをしている姿を見て、自分に関心を持ってくれる人がいたり、自分も人のそういう姿に気持ちを動かされて、その人に興味を持ったりしますね。興味を持つと発想が増えたり、接する人が増えたりするので、活動の大きなパワーになるんです。

1 2 3 4 5 6 7