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東京を巡る対談 月一更新

田中雅臣(天文学者)×平本正宏 対談 千億の星を眺めながら



<超新星爆発研究の目標>

平本 実際に研究をしていく中で、超新星爆発の研究をどうすることが今の目標なのですか?


田中 素晴らしい質問ですね。さっき星が爆発を起こす時にシュッと収縮してその反動でバンッて跳ね返ると説明したんですけど、実際にどういうことが起きているかという細かい説明は出来ない状態なんです。天文学の場合は僕たちの知っている物理法則をコンピューターに入力して、コンピューターシミュレーションをしてみるのですが、そうすると星はちゃんと潰れてくれるんです。でも、その後コンピューターの中では爆発してくれない、超新星爆発が起きないんです。つまり実際の現象に対して、何かが間違っているわけですが、その何が間違っているのかが分からないんですよ。


平本 その分からない状態というのはどれくらい続いているんですか?


田中 60年です。


平本 60年!!


田中 今僕が話したようなアイデアはすでに60年前にはあったのですが、誰一人シミュレーションで爆発を起こせないんです。


平本 潰れたときの反動が起きないということですか?


田中 起きるんですけど、それもヘタって潰れちゃう(笑)。


平本 それは不思議ですね。素人の僕でさえ、潰れた反動で大爆発というのは想像しやすい、あまり問題なく起きそうな気がしますが。そこには全然違う別の要素が入っているということなんですね。要は爆発を更に拡散させるパワーを生み出す何かが。

田中 そうです。

なので僕たちが今やっていることは超新星爆発を見つけるだけじゃなくて、見つけたらどれぐらいの規模で飛んでいるのかとか、どういう星はどれくらいの規模で爆発しているのかとかを細かく観測しているんです。シミュレーションが目指さなければいけない答えを僕たちはたくさん用意しているところです。それが全部説明できてはじめて、超新星爆発を理解したということになりますので、観測とシミュレーションの両面から攻めなきゃいけないんですよね。超新星爆発を見つけて研究している人は、超新星爆発はこうなっていますよという観測データをシミュレーションの研究者にどんどん渡していって、シミュレーションの人たちは何とかそれを物理法則で説明できるようにする。その両面から攻めて、お互いの手が繋がったら、僕たちの中で理解になるんです。天文学は目の前で現象そのものを起こすことはできないので、そういう方法をとるしかないんです。


平本 では、超新星爆発をシミュレート出来るようになったとしたら、何か他の宇宙の研究も進みますか?


田中 そうですね。先程色んな元素が出るという話をしたんですけど、星がどう進化するのかは分かっていて、潰れることも分かっていて、爆発するということも分かってると思っているんですけれど、どういう元素がどれくらいの量出てくるといった割合は、望遠鏡で観測していても分からないので、コンピューターの中でちゃんと爆発させてみないと正しいことは言えないんです。この元素は何割くらいこの星から来たのかということを、僕たちはまだ大ざっぱにしか理解できていないので、是非シミュレーションでちゃんと爆発させたいと思っているんですよ。


平本 爆発してくれないと色々分からないんですね。


田中 それが僕たちの周りにある元素に直結してくるので、尚更くやしいですよね(笑)。


平本 なるほど。それはつまり、その部分が理解できると僕たちがどこから来たのかということが分かるかもしれないわけですね。


田中 例えば元素の周期表にこれらの元素が何パーセントこういう爆発から来ましたというのが書けるようになりますよね。なんとかしたいですよね。


平本 先程から田中さんのお話を伺っていると、爆発する方が理にかなっている感じがしてならないですね(笑)。


田中 そうですか。




平本 すごい力が加わったからその力に反発する力が外に向かう、力のバランスは取れているはずなのに反発する力は外に行ききらず、また戻ってくる。理論の方では上手く説明できているのに、実際のシミュレーションでは上手くいかない。不思議ですし、妙な面白さを感じます。


田中 そういう意味では紙とペンの段階ではすごくうまく行っているんですね。ぎゅっと潰れるということは、位置エネルギーが使えます。ものを落とすと跳ね返ってきますよね。そのエネルギーを使って爆発しているんですけど、そのエネルギーって僕たちが観測している超新星爆発の実際のエネルギーの100倍ぐらいあるんですよ。だから燃料自体は100倍くらいあるんです。


平本 なんかスーパーボールを一生懸命投げて跳ね返ってくると思っているのに、鉄の鉛に化けちゃうような感じですね。


このこととはすこし違うレベルですけれど、作曲って頭の中でもできるので、こうやったら面白い音楽になるかもしれないというアイディアを実際に音を鳴らさないで、頭の中でこねくり回すことが出来るんですね。そのときに考えたアイディアを、コンピューターに向かって、いざ実際に音に置き換えて行こうとすると、ほとんどの場合頭で想像しているときよりもつまらない音になるんですよ(笑)。

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