<シミュレーションを完成させる”何か”>
平本 頭の中で完璧にシミュレーションしていても、そのシミュレーションを現実に「聴いて魅力的な音」にするためには、どうやら想像だけでは作り出すことのできない、”何か”を足してあげなくてはいけない。そして、その”何か”を見つけるのが、作曲なんだと思っています。それで、その”何か”は自分が思ってもいなかったところに答えがあったり。昔は、攻殻機動隊じゃないですけど、頭にジャックをさせたら無限にいい曲を作り出せると思い込んでいましたが、作曲という行為を続けて行くうちに、どうやらそうじゃない、現実の中で音を鳴って存在してはじめて、魅力にアプローチできるんじゃないかと思うようになりました。
田中 平本さんの中にその理論みたいなものがあるんですか?
平本 理論というより経験値が近いですかね。こうやるとこういう魅力的な音ができたという実際の経験が、こうしたらいいのではという新しい想像をさせるんです。でも、実際に新しく曲を書くときは、いままで全く経験していない何かを付加しないと自分にとって魅力的な音楽にならないので難しいです(笑)。
田中 僕らの言葉でいうと、物理学の法則があって、それが不完全でそこに何か付加しないと正しいことにならないということですね(笑)。

平本 そうですね、超新星爆発だからこその何かがそこにはあるんでしょうね。
経験値なんて日々増えていくじゃないですか。そして、そこに基づいた音作りの的確さがどんどん増してくるはずなのに、絶対にそれだけでは説明できない要素を取り入れないと自分にとっての作曲が成り立たなくなって行く。そういうのがいつまで経ってもあるんです、全然減らずに。こういう時代とテクノロジーのある自分が、いまどういう音を作らなくてはいけないのか、そこと向き合うと常に新しい音を作ろうとしていかないと、作曲家としての自分が破綻していくような気がするんです。変な感覚ですが(笑)。
田中 新しい音を作る為の方法は実際にどうされているんですか。例えばある日は全く違うことをしてみるとか。
平本 そうですね、まさにその通りというか、遅ればせながら最近気づいたのですが、結局外部刺激が一番いいきっかけになるんです。もちろん作る、音と向き合う時間は何よりも大切ですが、それと同じくらいに人の作品に接したり、面白い人と話したり、何かを見たりすることからの影響が大きい。そういう意味では宇宙は、僕にとっては大きな新しい音のための刺激です。
田中 あまり関係ないかもしれないですけど、僕も宇宙を研究する時に観測ばかりだと、方法論に行き詰まることがあって、そういう時に逆から、つまりシミュレーションから始めたりしますね。1年の半分くらいはそのやり方で過ごしています。全く違うこと、たまにしたくなりますよね。僕も超新星爆発を研究している間に、全く違うことを研究してみて、培ってきたことが役に立ったりすると、やってみてよかったなと思います。
平本 超新星爆発以外だと、どういうことを研究されるのですか?
田中 宇宙の全く違う天体を研究してみたりとかですね。
平本 最近では?
田中 銀河の中心にすごく大きなブラックホールがあるんですけど、ブラックホールとその周辺がどう活動をしているかを最近初めて研究してみたんですね。
平本 なるほど、ブラックホールも超新星爆発と関係していますしね。
田中 そうなんですけど、その場合は星の重さ程度のものなんです。銀河の中心にあるブラックホールはそれよりももっと巨大で、どうやって出来たのかはまだわからないんですよ。ちょっとそういう研究にも手を出したりしています。全然違う知識が増えて、全然違う考え方が生まれてくるので、いざもとの研究に戻ってみると、なんでこのやり方をしていたんだろうってなる場合もあります(笑)。結果的に、研究を客観的に見るきっかけになるんです。
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田中雅臣 Masaomi Tanaka
天文学者。
1983年愛知県生まれ。国立天文台・理論研究部 助教。
2009年東京大学 大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程修了。
超新星爆発、中性子星合体など、宇宙で起きる爆発現象を主に研究している。
2012年第28回井上研究奨励賞受賞。
著書に「元素はいかにつくられたか ー超新星爆発と宇宙の化学進化ー」(共著、岩波書店)がある。