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東京を巡る対談 月一更新

田中雅臣(天文学者)×平本正宏 対談 千億の星を眺めながら



<1年間に太陽1個分を吸い込むブラックホール>

平本 ちなみにブラックホールを学んでどういう視点、考え方を持つようになりましたか?


田中 一つは研究に対する姿勢が変わったかな(笑)。銀河の中心にあるブラックホールって超新星と違ってずっと存在しているんですよ。そうなるといつまで経っても研究できるので。じっくりこういったものを研究する時はどうしたらいいかという方法論から入ったんです。


そもそもブラックホールを研究し始めたきっかけは、超新星爆発のデータを取り続けていたら、ブラックホールのところの明るさがピカピカと変動していたんです。それで研究することにしました。


平本 その変動の原因は何だったんですか?


田中 ブラックホールに物が落ち込んで、光ってるようです。ブラックホール自体は見えないんですけどね。


平本 ということは、ブラックホールが絶えず何かを吸っているということですか?


田中 吸っています。


平本 どれくらいの量、星?を吸っているんですか?


田中 星というよりも気体ですね。ブラックホールの周りにある気体を絶えず吸っているんですね。1年間に星1個分の気体を吸っています。


平本 星1個というのは?


田中 太陽1個分ですね。


平本 おー、すごいですね!


田中 10の33乗グラムです(笑)。吸うだけだと、ブラックホールなので消えてなくなるんですけど、吸われる予備軍みたいのがブラックホールの周りをぐるぐる回っていて、回っていれば遠心力があるから少し耐えられるんですよ。ぐるぐる回っていると摩擦ですごく熱くなって、それが光る。まさにそれがピカピカ光っている原因なんですね。さらに、その一部がジェットとして超高速で吹き出しているようで、その大きな変動を偶然捉えたみたいです。


平本 へー!それはどれくらいの割合で観測できるんですか。




田中 分からないです。それを数字に出来たら学会でも発表できるくらいです(笑)。あまりにレアでたまたまポーンと明るくなったので、何だろうと思って報告したんですけど。それが1年のうちに何回起きるかとか、まだよく分かっていないんです。今のところ観測できたのは1回だけです。実は気にしていないだけでもっと多いのかもしれません。超新星爆発の研究をしているので、いままでは無視していたんですけど(笑)。


平本 でも宇宙の背景放射も最初はノイズかと思われていたんですよね。それに今回のジェットは、田中さんが超新星爆発の研究をされていたから見えたわけですよね。


田中 そうですね、完全に副産物だったんですけど。そういう研究に繋がりました。やればやるほど新しい謎が増えていきますね。

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