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東京を巡る対談 月一更新

長尾健太郎(数学者)× 平本正宏 対談 シンプルな坂道を登る時、どちらを向くか

<ブレイクスルーの生まれかた>

平本 数学で論理が飛躍する瞬間はありますか。

長尾 論理は飛躍しちゃダメだけど!!(笑)。

平本 (笑)。えーと、なんて言えばいいのかな……。

音楽の理論って体系化されてて、対位法、和声理論なんかがあり、こうすれば綺麗な進行に、あるいは悲しい曲想になるとかが分かっている。で、ガチガチに勉強して、そこから離れるのが大変になっちゃう例が多々見受けられるんですが、その理論を創り上げてきた大作曲家たちはと言えば、当時あった「理論」からの逸脱を試みているんですね。

そうやって、いまある理論の枠に疑問を投げかけていくことこそ、作曲の醍醐味なのではないかと考えてます。

そういう姿勢って、数学者のあいだにあるのかなって、気になったんです。

長尾 たぶん平本さんの言っている「理論」と、数学における「理論」って、ちょっと違うものなんじゃないかな。数学における「理論」は作曲家にとっての「曲」。作曲家にとっての「理論」は「曲」を作るに当たっての経験則の集大成みたいなもの、じゃないかな。

平本 音楽の歴史で起きたようなことは数学界では起きないんですか。

長尾 数学において、ある理論が発展する際に、意識されるか意識されないかは別にして、背後に流れている「思想」は必ずあると思います。作曲における「理論」みたく、体系化されているわけでもなく、多くの人に共有されているわけでもないですが、「この理論はこういう風に発展していくべきだ」というような、経験に基づく信念みたいなものです。

「思想」というと立派に聞こえますが、結局いままでの数学を根拠にしているので、そこを常に真摯に見直していくことが重要で、ブレイクスルーっていうのはそういうところから生まれるのかもしれませんね。

平本 そういう話を伺うと、数学の性質/本質と向き合った音楽を作ってみたくなりますね。

(構成/間坂元昭)

協力:鎌田耕平、佐藤峻一


長尾健太郎(数学者) Kentaro Nagao

数学者
1982年4月18日生まれ。
1997年国際数学オリンピック銀メダル、1998、1999、2000年同金メダル。
2005年東京大学理学部数学科卒業後、京都大学大学院理学研究科数学・数理解析専攻に進学。2009年に学位取得後、Oxford大学に研究滞在。2010年4月より名古屋大学多元数理科学研究科助教。
モジュライ理論に潜んでいる対称性に興味を持っている。
特に、Donaldson-Thomas理論(6次元空間上の幾何的対象のモジュライ空間に関する理論)について研究を進めている。


対談終了後、左から平本、長尾健太郎、間坂元昭
撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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