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東京を巡る対談 月一更新

フルタヨウコ(料理家・編集者)×平本正宏 対談 料理と音楽は相似形



<ガウディの作品に惹かれて>

フルタ 平本君もなんで作曲家になったの? 依頼されたきっかけとかはあったの?

平本 僕ですか? 依頼されたことは最初は全然無くて、全て売り込みです。この人に自分の曲を聴いてもらいたいという人が見つかると、相手の迷惑も省みずに聴いて下さいとお願いして、結果的にお仕事することになって、というのが多かったですね。

フルタ 売り込みなんだ。売り込みができるのも才能だよね。やっぱり作曲家になりたいと思って?

平本 そうですね。漠然とですけど中学生の頃に作曲家しかないと信じ込んだんです(笑)。中学生になると音楽に興味を持ち始めてバンドを組んでみたりするじゃないですか。それで音楽が好きになって、テレビの音楽番組とかを観ていると、歌う前に「作曲:~」となっているところが気になり始めまして。

バンドとかで曲を作る人って、自分で歌う人以外は後ろで裏方的に演奏している人が多いんですよね。そういうの格好良いなっと思って、独学で勉強し始めた。結果的に、運良く芸大にも入れて。そんな感じですね。

フルタ 平本君は自分が信じた道を歩めたんだ。私は建築の仕事がしたくて建築学科に入ったんだけど、結局なれなくって。自分がなりたいなって思った方向にはもう進まない気がして。

平本 おおっ、それは面白い考え方ですね。そもそも建築学科にはなぜ進まれたのですか?

フルタ 高校の時に理系文系って決めなきゃいけないじゃないですか。それで、いままでそういうことも考えてなかったしどうしようかなっという時に、アントニーオ・ガウディの作品集を見て、「あ、建築家ってこんな感じでもいいんだ」って思いまして。それが建築家になろうかなと思ったきっかけです。父親がリフォーム好きで家のリフォームばかりやっていたことも大きいかもしれません。

平本 お父様は家のリフォームをご自分でされていたんですか?

フルタ ではないです(笑)。いつも来てくれる工務店の滝沢さんというおじちゃんがいて、小学校に上がる時に自分私の部屋が作られていくのも見ているし、その後リビングの床の張り替えで滝沢さんが来た時に、それを手伝ったこともあって。結構大工的なことも好きだったんです。

平本 へー!その工務店の人は結構身近な人だったんですか?



フルタ 常にリフォームをしていたので、そういう意味では身近な人でした(笑)。自分で言って気付いたんだけど、周りがやっているから私も興味をもつ。誰も何もやっていないところで自分がやりたいっていうのは無かったかな。小学生の頃から楽器やっているのも音大が実家から歩いて行けるほど近くて、両親もクラシックが好きでAV機器がたくさんあったからなんですね。

平本 すごく羨ましいですね、その環境。

フルタ 私が小学校2年の頃にCDプレーヤーが、その2年後くらいにレーザーディスクが家にあったんですよ。1980年代半ばかな?

平本 レーザーディスクって結構豪華だったはずですよ。

フルタ きっとそうだったんでしょうね。周りを見渡してみてもうちにしかないので、レコードみたいに貸し借りが全くできなくて不便でした(笑)。あとボディソニックとかもありました。ソファーで頭の部分にスピーカーがあって、重低音が体感できる。

平本 それは知らないですね。(その場で調べてみて)5.1の初期みたいな感じですかね、音に包まれるような。そういうのがあったんですね。

フルタ そうそう。そういうのがあったり、音楽が身近にあったから自然と私もやっていたし、建築もお家をよくリフォームしていたので、家のことを考えるということが日常にあったし、料理も母親がすごい好きでよく作っていたから、というのもあったかな。

平本 小さい頃からの環境を素直に受け入れてきているということですね。とても自分にとっていいものが周りにあって、それに対しても愛着感や興味を惹かれるものがあった。育っていく中で環境や家族に逆らったりすることもあるじゃないですか。

フルタ そうですね。でも、親も押し付けるようなことはいっさいしなかったので。あ、でもピアノはちょっと辛かったかな(笑)。

平本 あ、ピアノが辛くなる話は結構聞きますね。実際音大生でもそういう人が多いですよ。

フルタ ピアノはね、練習さぼっているのがバレるからね。

平本 いやー、バレますよね(笑)。僕も何度それで怒られたか、大学生になっても。

フルタ お母さんが買い物している間に練習してたんだもんってウソついていたりとか(笑)。家が音大に近かったから音大生がピアノを教えに来てくれて、その場で練習の結果が親に分かっちゃうんですよ。練習してたのか練習してなかったのか。

平本 ピアノの先生なら、さすがにちょっと聴けば分かりますもんね(笑)。

フルタ うん。まあ母親が分からなくても、練習の後に先生と一緒にケーキを食べるんですけど、その時に「今回あまり練習できなかったの?」って先生が聞いてきたり。

平本 「先生それは言わないでー!」と子供のヨウコさんは思う訳ですね(笑)。

フルタ 親からは、毎日やってるって言ってたじゃないって言われて(笑)。

平本 あれって不思議ですよね。どんなに取り繕ってもわかるんですよね、練習していないのって。レコーディングでもそのひとがどれくらい練習したかってすごく分かるんですよね。もちろん何度かリハーサルしてからレコーディングすることもありますし、その場でいきなり譜面を渡して初見でやってもらうこともありますが、それでも普段どれくらい個人練習に時間を注いでいるかはパッと分かるんです。そして、あまり練習やっていない人の方が言い訳が多い(笑)。そこはプロも、子供のレッスンも同じですね。こんな話をしながら、僕も自ら律しなくてはいけませんが。

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