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東京を巡る対談 月一更新

フルタヨウコ(料理家・編集者)×平本正宏 対談 料理と音楽は相似形



<料理もジャムセッション>

フルタ 確かに音楽と料理ってすごい似ているのかもしれない。自分で選んだ楽器で弾けるし、ピアノっていう漠然とした形さえあれば、楽器店なんかに行ったり、お家にあればすぐに弾けるし、料理で言えばキッチンも自分のキッチンが一番使いやすいけれど、人の家でも料理が出来ないというわけでもないので。

平本 人の家のキッチンで逆に面白いってことはありますか?

フルタ ありますね。その時は建築の方にスイッチが入っちゃうんですけど。あ、こういう導線なんだとか、こういうものをここに収納するんだ、キッチンからの眺めはこんな感じなんだとか、この調理器具の品揃えっていうことは何系の料理が好きなんだなって。

平本 それは建築的な見方ですね。そういうものはその後のお仕事の参考にしたりすることはありますか?

フルタ それはありますね。気づかなかったけど、こういう導線にすると使いやすいんだなって参考にしたりします。楽器もそうですね。用意されたものでやらなきゃいけないですし、あるいは自分で用意しなきゃいけない場合もありますし。

平本 ピアノ弾く機会は時々ありますが、演奏する場のピアノの鍵盤が思った以上に重かったり、グランドピアノだと思ったのにアップライトだったりとか、ピアノだけでなく会場の響きがとても掴みづらいときとか。でもその場だから出来ることは何か、こういうピアノだからどういう風に弾こうとかをネガティブじゃなくむしろポジティブに考えて、瞬時に身体と思考を合わせていきますね。そういうシフト作業は結構好きなので、その結果演奏も喜んでもらえることが多いです。

フルタ 楽器もそこの場所、所有者ならではのクセがありますよね。でも、そのクセはその場の雰囲気に対応したからこそのクセであって。料理に置き換えてもそこにあるもので調理する=そこにいる方たちはそれで調理する料理が好み、ということになります。だから例えばフライパンがこのぐらいの大きさのがあると思ったのにら無かったから、そしたら炒め物じゃなくて鍋で蒸し煮?みたいな感じで変えたりするかな。

平本 そういう大きな転換もしてしまうんですね。すごい!

フルタ 現場に着いた時点でIHしかないと判明したら、火力が期待できないので最初からコトコト煮た方がいいのか、それとも生で出しちゃった方が良いのかとか。あとは反対にすごい重装備でガスバーナーまであるところがあったり(笑)。じゃあガスバーナーでやってみようかなとか。本当に料理ってジャムセッションだなーって思います。

平本 まさにミュージシャンですよ! その全て楽しんでしまう感覚はとても似ている、というかもう同じものですね!



フルタ そうなんです。もうここまできたらその場の雰囲気を楽しまないと、という感覚はミュージシャンと似てますね。そして対応できるスキルをもっていないと楽しめない、というのも同じですよね。

平本 それこそ料理と音楽のコラボレーションみたいのはないんですか? ケータリングではなくて、それと似た感覚と共有させてみようとか。

フルタ 一昨年に青山スパイラルのCAYで、ライブの間の料理をしていたことがあって、その時はそのライブをしている人にちなんだ料理を作るというのをやったことがありますよ。

平本 それはその場で考えるみたいのはあるんですか?

フルタ その時はほとんどなかったですね。予約制で人数もわかっていたし、ライブの間の時間との勝負なので、事前に調理場をよく検証してどうベストなタイミングでだすか考えて、という感じでした。でも、出演する人は決まっているからその人の曲を聴いて料理を考えたのが面白かったですね。

平本 音楽にインスピレーションを受けながら料理を作ったんですね!

フルタ そういう感じです。それこそ、わかる人にしかわからない感じのインスピレーションで(笑)。

平本 では今度そういったイベントやりたいですね! 同じテーマや食材で料理と音楽両方別々に考えてみたり、料理を見て音楽、音楽を聴いて料理を考えてみたり。なんか企画したくなってきました(笑)。

フルタ それ、すごい楽しそう(笑)。

最後になりましたが、ヨウコさんが「東京を感じる場所」として東京タワーを選ばれた理由をお聞きしたいと思います。

フルタ 私は東京といっても東京の郊外で生まれたので、東京タワーに近づいたのもそれこそ18の頃が初めてだし、やっぱり「東京と言えば東京タワー!」って感じもあります(笑)。大人になってから東京の外に車や新幹線で行ったりして、東京に帰ってくる時に東京タワーを見るとそろそろ家に帰れるなっていうのがあるかな。うん、やっぱり東京タワーっていうと、東京に帰ってきたっていう感覚があります。







平本 シンボリックなところはありますよね。誰にも東京を実感させてくれるというか。

フルタ 首都高でどこか行って帰ってきても東京タワーのそばを通って帰ってくるし、新幹線でまもなく東京ですってアナウンスが流れる時に東京タワーが見えるという感じだから、一番東京を感じますね。

平本 ほっとさせてくるもの、東京に帰ってきた合図みたいなものですね。

今日はありがとうございました!

 


フルタ ヨウコ / Yoko Furuta

料理家、編集者。
東京生まれ。 雑誌や書籍、Webなどの媒体で料理、文章、写真の仕事を行なう。 現在は、ジャムの制作プロデュースや、株式会社クラシコムの社員食堂にも携わっている。
自由大学「朝ごはん学」教授。 著書に「果物のごはん、果物のおかず」(誠文堂新光社)、「北欧のおいしいスープ」(新星出版社)。http://home-home.jp/

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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