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東京を巡る対談 月一更新

フルタヨウコ(料理家・編集者)×平本正宏 対談 料理と音楽は相似形



<社食が開いたコミュニケーション>

平本 今社食の頻度ってどれくらいなんですか?

フルタ 今は週に1回です。火曜にやっています。

平本 ヨウコさんが社食を振る舞うようになって、どんな反応がありましたか?

フルタ スタッフの人たちの食への意識がすごい変わってくれてる感じがあります。最初はやっぱり食に興味はあるんだけど、手を出していないというか、どうステップアップすればわかりかねているというか。例えば国立って地場野菜が「しゅんかしゅんか」ってところで普通にスーパーと同じくらいの値段で新鮮な野菜が買えるんだけど、そこにはあまり行ったことが無いとか。そこの野菜を使って社食をすると、「これおいしい!」、「しゅんかしゅんかで買ってきた野菜だよ」、「え、じゃあ帰りに買って帰る」って感じで。ちゃんとした食材に興味が出てきたという風で。この反応って面白いなって。

平本 それはやっぱりヨウコさんが、社食が美味しい、で終わるんじゃない細かなアプローチ、国立にある会社の社食だから国立のものを食材にして、興味が広がってコミュニケーションが増えるようなアプローチを心がけているから出来るものだと思います。

フルタ クラシコムはウェブショップの会社なので、勤務時間のほとんどは画面に向かって集中する感じなんです。社食では皆でいっせーのせで食べるので、そこで仕事上ではあまり話しをされないスタッフの人たちでも偶然隣り合わせでごはんを食べてコミュニケーションをとれたリとか。例えば青森出身の新人の子がはいってきたら青森の食材を使って青森の話題をしやすくしてみるとか、という感じで話題作りができるように心がけていますね。

平本 ヨウコさんの社食のおかげで社内のコミュニケーションがうまくいっている部分はありそうですね。

フルタ そうですね。そのきっかけになったら良いかな。そこらへんは編集者的な思考でしてますね。あと6時の定時に確実終わらせて残業をしない会社で、ゆとりを持って夕飯に向かえるので、お家で再現しやすそうなもの、これ美味しかったから今度家でやってみようとなってくるものを意識して作っています。

平本 レシピも作ったりしているんですか?

フルタ レシピは渡してはいないんだけども、聞かれたら教えていますね。どの料理をどう聞きかれるかで「あ、こういう料理は作ってみたいと思うんだな」と気づけて私にとってもよいリサーチになっています。



平本 そういうのはすごくいいと思うんです。まだ少しですけど、人前で音楽の話や作曲について話す機会がありまして、そういうときに極力一般論は言わないようにしているんです。むしろすごくパーソナルな感覚や聴いてきた音楽、着眼点をわかりやすい言葉で話すようにしています。日常のふとしたところから世界が広がるってことは沢山あるじゃないですか、それは音楽を知ることや作曲をすることも同じなんですよね。そこから、新しいものや興味を見つけて、自分の活動が展開していく。それを気づかせてくれる人に会えたら、楽しいことが増える訳ですから、いいですよね。

フルタ ですよね。ふとしたところから世界が広がるという感覚を失わないようにしたいですね。実は私、日常ではラジオばっかり聞いていてCDを聞かないんですよ。自分で選んだものしか聴かないというよりは自然に入ってくるものを聴いている感じなんですね。そこで集中して聴いているわけじゃないんだけど、ちょっと気になった曲などを後から調べたりしていますね。

平本 そうすると自分が想定していなかったものに出会えますよね。ツイッターとかFB、音楽や情報系のポータルサイトって、結局自分の趣向とは関係なく色々な情報が出てくるじゃないですか。そういうサイトの戦略的なことは抜きにして、そこで気になったものに接するのは、自分一人で探しまわっただけでは絶対に巡り会えなかっただろうと思うものも結構ありますよね。ラジオはその原型。自分の壁の向こう側にあるものに出会えるというか、今日の対談とも結びつく話ですね。

フルタ そう。中学生の時に一番仲良かった吹奏楽部の後輩が今ナタリーの編集長をやっているんですよ(笑)。

平本 へー、ナタリーの編集長ですか!

フルタ そう。唐木元ってひとで。彼がナタリーの編集長ということは、クラシコムの社長を経由して知ったんだけど、小学生の頃から同じ学校で1コ下で吹奏楽部も一緒で、その時から音楽の趣味が合ってたし、唐木から教えてもらうミュージシャンがいたりしたのでナタリーの情報が面白かったり。なので身近な人たちの情報源とかツイッター、facebookなんかも自分がとりあえず選択した情報、ラジオもJ-waveしか聴かないんだけど、J-waveの情報が自分にささるのが多いからかな。そのくらいの選択はするんだけど、それ以上の選択はしない。

平本 大枠は経験値から決めるけど、そこからは選り好みせず貪欲に受け入れるということですね。それが一番面白いですもんね。

フルタ 何だろ、一人で仕事をして、何でも自分で選択せざるをえないからか、全部自分で選択したものしか無い生活のは息苦しい(笑)。

平本 食事とかになると、人の料理したものを頂くとか、誰かが行きたいお店に一緒に行くとかそういうのは楽しいと思うんですよ。その人と全く食の嗜好が合わないなと思えば、一緒に行かないじゃないですか。もちろん仕事の会食とかは別ですが、でも、仕事して面白い人と食の嗜好が違ったこともあまりないような。

食も音楽も触れた瞬間でわかるので、感覚的に似てるんですよね。いい音を聴けば「おおっ!」てテンションが上がる、おいしい料理を食べたら口に入れた瞬間に「おおっ!」ってなる。料理を仕事にするのって結構ミュージシャンぽい、音楽家ぽいんじゃないかなと思ってます。一発で、美味しかったら美味しいって言ってくれるし、気に入った音だったら好きって言ってもらえるし。

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