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東京を巡る対談 月一更新

勅使河原加奈子(フードプランナー・通訳)×平本正宏 対談 習うより慣れろで学んだ料理と外国語

<バックパッカーでフランスへ>

平本 自分の大好きなことと、お仕事とされているフランス料理の世界が結構違うと思うのですが、どう考えられているのですか?

勅使河原 いまのフランス料理、脳内マスターベーションみたいな料理が多いかもしれません。「食べてガツン、カツ丼旨い」みたいなものではなく、とにかく五感をフル動員した美しいものを目指している。

平本 料理を口に入れて噛んだときの音までアレンジしたいと考えているくらいですしね。

勅使河原 そう。立ち上る香りとか食感のコントロールとか、それも1回何万円というような世界です。だから、その繊細な世界とキューバの、あの腰グリングリンの世界の両方と接することで、人間的にもバランスを取ってきたんだと思います。

仕事の方の話をすると、大学は仏文科を出たんですけど、全然フランス語はしゃべれなくて。大学卒業後は気は進まなかったんですけど、普通に就職しました。

平本 就職したところはフランスの会社という訳ではなくて?

勅使河原 全然関係なく。オーチスエレベーターという会社なのですが、ニューヨークのランドマーク的なビル、たとえばアール・デコのエンパイアステートビルなどがこぞってオーチスエレベーターなんですよ。それで、少しでもニューヨークに関係のあるところにと思って。

平本 じゃあ、ニューヨークに出張もあったんですね。

勅使河原 全然(笑)。人事総務部の人事課だったので、全然関係なかったですね。

会社をやめてバックパッカーをして、それでフランス語をちゃんと身に付けようと思って、自分で夏期講習を申し込んで、ひと夏フランスに行ったんです。大学3年の時ではじめてバックパッカーした時にパリと、卒論を書くためにロワールの南に行っていましたが、それ以来だったので2回目のフランスでした。でも実際に初めてバックパッカーでヨーロッパに行った時、一番最初に訪れた国がイタリアだったので、イタリアのインプットは大きかったですね。

平本 やっぱりラテン色が強いんですね。

勅使河原 はい、もう完全にラテン色ですね。

平本 お仕事の方ではイタリアとかキューバとか東南アジアの料理にいかないんですか? その違いも面白いです。

勅使河原 たまたま求められた仕事が以前に勤めていた会社でやっていた仕事、フランス人のミシュラン星のシェフを日本に呼んでくるという仕事でしたので。

フランス語、全然しゃべれなかったんですけど、そこで鍛えられてしゃべれるようになったんですよ。1回もフランスに留学もしてないし、住んだこともないですが。

平本 実践は何よりも強いですからね。作曲や楽器の演奏も、やりたいことや目的はっきりあるとただただ訓練する場合の何倍も速く習得できますし。習うより慣れろで、実践が一番鍛えられますよね。

勅使河原 音楽と料理似ているのかもしれないですけど、料理ってやっぱり触れることが出来るし、熱で感じられるし、目の前でモノが変化していくので、それぞれの状態をなんと呼ぶかを覚えていけば、間違えない。素晴らしいのは、料理人って料理を化学と完全に認知しているので、何を質問しても必ず答えが返ってくるんですよ。例えば、インゲンを茹でるのに、どうしてぐらぐらしたお湯にこんなに塩を入れるのかと聞くと、緑の野菜は塩をたくさん入れて、塩でコーティングすることで中の色素を出ないようにしちゃうんだよって教えてくれる。

平本 料理はもしかしたら音楽より化学的かもしれないですね。音楽は、作曲や音響の部分では数学的な要素を内包していますが、全てが全て理論立てられるほどではありません。むしろ理論立てられないところにそれぞれのアーティストの面白さがあるので。

勅使河原 料理人は、どんどん聞くと、どんどん答えてくれますし、実際に自分が厨房にアテンドして、実際調理が始まってしまうとフランス語の分からない部分があっても、裏に行って辞書引いてる場合じゃありませんから、とにかく分からないことは聞いちゃう。

日本の地方のホテルにアテンドすることもあるのですが、ホテルの料理人さん達にとっては、フランスからスーパーシェフが来たら、色々学んで、流行をキャッチアップする絶好の機会なので、私から自発的にどんどんシェフに聞いて、聞いた事を伝えるようにしています。だから質問が出なくても、こちらからどんどん聞いて訳してあげています。社内の研修にもなるので。

平本 側にいるからこそ、信頼があるからこそ聞ける事もありますしね。

勅使河原 それとフランスから来たシェフ達にとってみれば、完全なアウェー状態なんです。たとえば、いきなり自分のブルターニュのレストランから、日本のホテルに行って、食材もお皿も普段使っているものと違うわけですから。だから、お皿がいっぱいストックしてあるところに行って、使いたいお皿を一緒に選んであげたりもします。

そこでシェフが「これが良い」と持ってきたものがお椀の蓋だったこともありました。お椀の蓋もこうやって使うこともできるんだと思ったり。でも、これ日本でこれやっちゃうと、恥ずかしいからやめましょうと伝えましたけど。食材では面白い話がいくつもあって、例えば空豆なんですけど、フランスと日本では違って向こうのってもっと小ちゃくて固いんです。そこで枝豆を紹介してあげたら、すごく気に入ってくれたり。あとは、イチゴを夏に使いたがるんですね。日本だと、イチゴは夏ではもう終わりですから、無いことを事前に伝えてあげたり。

だからシェフを呼ぶってことによって、フランス語だけじゃなく、料理の専門用語、食材の知識、お皿などテーブル周りのことなど、全部勉強させてもらいました。学校の勉強は嫌いなので、私にあっていましたね(笑)。

平本 勉強嫌いは一緒です、僕も勉強とつくだけで拒絶反応が(笑)。

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