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東京を巡る対談 月一更新

勅使河原加奈子(フードプランナー・通訳)×平本正宏 対談 習うより慣れろで学んだ料理と外国語

<半年お店を閉めて開発するレシピ>

勅使河原 そういえば、有り難い事に、キューバに通っていたのでスペイン語が多少出来るっていう事でスペインのレストラン エル・ブジ(現在休業中)、シェフのフェラン・アドリアの取材にずいぶん前に行かせてもらえたことがあったんです。片言のスペイン語で取材依頼を出しても快く受け入れて頂いて嬉しかったです。全日本洋菓子工業会が出している月刊誌の企画だったんですけど、17点の最新のデザートを取り下ろして、レシピも全部訳し、クリエーションの謎に迫るみたいな。

平本 レシピもすんなり出してくれたんですか?

勅使河原 すんなり出してくれました。やっぱ本物は違うなと思いました。彼らはそのレシピを開発するのにものすごいお金をかけていたんですよ。研究所まであるくらいですから。そこで日々化学実験じゃないですけど、色んな実験をして、その為の要員もいたりする。だから、1年に半年しかお店開けず、あとは研究に費やしている。そういう血と汗と涙の結晶で作ったレシピなのに、無償で公開してくださる。

やはり気になったので「いいんですか?」と聞いたら、いいんですって。コピーするのとクリエイトするのは全然違うから。自分でクリエイトしたものはコピーし放題、どうぞどうぞっていう感じで。

平本 格好良いですね。

勅使河原 太っ腹でしたよ、本当に。それをやったらそれは自分たちのコピーでしかない。作ったのは自分でしかない。その毅然とした態度は面白かったです。

平本 今目指している事とかってありますか、もちろん企業秘密なのは大丈夫です。

勅使河原 じゃあ、言える方から言うと、先程も話しましたが、吉祥寺「にほん酒や」の高谷さんと、お燗、日本酒それも純米酒の楽しみ方を文化としてフランスに出したいなという話をしています。お酒を温めて飲むっていう文化が無いので、受け入れにくいかとは思うんですけど、基本的にフランス人は美味しいものは美味しいと分かってくれる国民なので、美味い酒の楽しみ方を文化として持っていきたいんです。

平本 勅使河原さんが音楽やバックパッカー、勿論お仕事も通していろいろな国の人と文化に触れてきているじゃないですか。だから、モノだけでなく背景や接し方の面白さも、それぞれの国の性質に合わせて紹介されているからいい出会いを生むんでしょうね。僕に勅使河原さんのような名プロデューサーがいてくれたらと思います。いいなあ、高谷さんは(笑)。

勅使河原 ふふふ。ありがとうございます。

あと、地中海の料理、文化みたいなものを少し、日本に持ってきたいなというのがあります。南フランスにずっと通ってたんです、マルセイユが好きで。その辺の料理と日本の料理ってかけ離れているようで接点もある。フランス料理の楽しみ方を変えてもらえるようなことをしたいなと思います。

あともう1つ。アレルギーで食べれない、食べ物を楽しめない人が何十パーセントかいるじゃないですか。多分アレルギーってのも増えてくると思うので、アレルギーの人でも美味しく食べれるような食環境みたいのを整えていきたいというのは大きなビジョンとしてあります。以前ブログにも書いたんですけども、私の妹分みたいな女子がフランスでそういうムーヴメントを始めていて、彼女がこの前人権を守ろうみたいな大会に参加していたんです。アレルギーを持っているというのはハンディキャップで自分だけ特殊なものを食べるわけですから、皆と同じものが食べれないっていうのはある意味人権が侵害されているかもしれないという側面があることに初めて気づいて。で、もっとその辺のバリアをとって、皆ひとつのテーブルで美味しく食べれるようなメニューを考えたりしたいです。

絶対に美味しさを犠牲にしちゃいけない。美味しいけど、アレルギーの人も同じように食べれる、食のバリアフリーみたいなことに尽くしていきたいなと。

平本 軽度のものはかなり多くの人が持ってるじゃないですか、僕もとろろが食べれませんし。ただ、重度の、卵や牛乳、小麦粉などの料理の主要な食物にアレルギーがあると楽しみをその人だけ得られない。それは忍びないと思います。

勅使河原 イスラム教徒が食べてもよい食品「ハラル」とかすごく注目されてますけど、宗教のハンディキャップを超えた食環境は出来たらいいなと思っています。仕事になるかどうかは分からないですけど。

平本 なるほど、今年はかなり大きな動きがありそうですね。

最後に、「東京」をイメージされる場所としてカフェ・トロワグロを選ばれた理由というのをお聞きできれば。


新宿小田急百貨店8階のカフェ・トロワグロ

勅使河原 カフェ・トロワグロは、リニューアル時の内装やテーブルアートのお手伝いをさせて頂いたんです。あの、新宿の西口広場が見えるところが自分としてはすごく気に入っていて、まあ新宿は子供の頃から一番近い都会でしたし、マイルス・デイヴィスの復活ライブを見に行った場所でもありますし(笑)。

平本 出身はどちらですか?

勅使河原 東京です。実家は東小金井で、生まれたのは荻窪で。本籍は三鷹なので、ずっとこの辺をぐるぐるしてるんです。ここから見える風景がすごく好きで。あと、トロワグロの料理、三ツ星シェフの料理が、1850円くらいで食べれちゃうんですよ、お昼で。とてもカジュアルで、バランスが良く、酸味のアクセントが効いていて。だから、かなり多用していまして。打ち合わせとか、よく使っている馴染みのある場所ですね。いつもこう、自然光も入るし、食べて元気になれる場所です。

平本 撮影は吉祥寺の中道通でも行いましたが。


吉祥寺中道通りの景色

勅使河原 吉祥寺に住んでから11年になるんですけど、中道通りはもう生活そのものですね。買い物は中道通りで済ませています。自分の生活のクオリティ オブ ライフを支えてるのは中道通り。だからもしね、都心の高層マンションなんかいくら銀座から10分って言っても、スーパーしか無いところに住んでいたらアウトですよね、一人暮らしで。食べるのも面白くないし、農薬いっぱい使ったオレンジとか1キロとかで買わないといけないのはありえない。誰が作ってどこから来たか分かるものも1個単位で買えるのは、やっぱり中道通りだからだと思っています。

平本 僕も中道通りよくブラブラしていますし、いい場所ですよね。

本日はありがとうございました!!

 


勅使河原加奈子 Kanako Teshigawara

1964年東京生まれ。学習院大学文学部フランス文学科卒 ワイン専門商社勤務、フランス人シェフ招聘ビジネスに7年間関わったあと、2000年フードデザイン&イベントプランニングCREMA設立。フランス人シェフ招聘を続ける傍ら、ハチミツ専門店立ち上げ、ホテル、レストラン、フードショップの立ちあげ、リニューアル、商品開発のアドバイザー。ワイン、チーズの紹介、料理・製菓・製パン・ワインの専門通訳、食に関する執筆、仏コックコート輸入、洋包丁輸出、フランスわさび栽培コーディネート、レストランPR、食に関するイベントの企画など料理を中心とした食に関わる仕事に携わる。

撮影:moco  http://www.moco-photo.com/

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