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東京を巡る対談 月一更新

勅使河原加奈子(フードプランナー・通訳)×平本正宏 対談 習うより慣れろで学んだ料理と外国語

<現場から頼まれて始まる仕事>

勅使河原 あとフランス人はあくが強いですからまず戦わないとその中に飛び込めない。

平本 じゃあ和気あいあいじゃない時もありますか?

勅使河原 ありますね。

平本 実践だからこそ、今使っているものを吸収できるわけですね。

僕は自分がはじめて作曲家としてお仕事したのがパリだったんです。コンテンポラリーダンスの音楽を作って、ダンサー達と一緒にパリに行ってライブで演奏したのですが、音楽だけできればいいというわけでは全然ないことを実感した機会でもありました。振付家やダンサーとコミュニケーションを取って、彼らの専門用語や思考方法、求めている音楽を知ること、劇場の音響設備や聴かせ方をどうデザインするか現地の音響さんと話すこと。僕も実践から入ったのですが、1人で作曲したり、考えているだけでは想像もしなかったようなことが起きるんですね。もうそのときは頭フル稼働でやれることを必死でやった思い出しかありませんが、本当にいい経験だったと今も思います。

勅使河原 そうですよね。私も毎回毎回メモして、あとで辞書で調べて。あとになって、ああそうだったのかと思ったり。

平本 一番最初の通訳の時ってどんな感じでした?

勅使河原 緊張しました。通訳さんと言われても自分のことだと分からなかったくらい(笑)。

平本 その時はしゃべれたのですか?

勅使河原 全然しゃべれなかったです。

平本 おおー、じゃあもう必死で。

勅使河原 必死必死! 目を見て(笑)。

平本 そこからスタートして、いまはシェフとのやり取りだけでなくて、食材や調理器具を紹介されたり、プロデュースされたりしていますよね。そういうことをやり出したきっかけは?

勅使河原 要望があったからなんです。今お手伝いしている岐阜県関市のミソノ刃物は、洋包丁ではトップブランドと言われてるんですけど、きっかけはフランスから呼んできたシェフが「頼みがあるんだけど、ミソノの包丁が買いたい」と言われたことがはじまりなんです。

平本 えー、じゃあ既にフランスでは有名だったのですか?

勅使河原 面白くて、シェフが何人来ても、皆「ミソノミソノ」って言うんですよ。そうしたら、今度は日本の料理長達が、フランス人が着ているコックコートがすごく軽くていいと言い出して。日本のコックコートって綿100%に糊を効かせているので、ゴワゴワですごく固くて重いんですね。フランス人が着ているのは薄くて柔らかくて格好良くて。で、コックコートを日本に紹介したら、そのコックコートメーカーが日本の包丁を紹介してくれと言い出して。で、一か八かでミソノ刃物に電話したら、フランスには輸出していませんという話でしたので、それでは輸出のお手伝いをできればと思い、始まりました。

平本 現場での交流から生まれたわけですね。こういう交流は素晴らしいと思います。

勅使河原 前に蜂蜜専門店の立ち上げを手伝ったのですが、それもレシピを訳していた時に、ラベンダーの蜂蜜やもみの木の蜂蜜と書かれていたのがきっかけなんです。その頃日本で蜂蜜っていったらサクラ印の蜂蜜くらいしかなくて、それ用意したらシェフには「違う」と怒られてしまいました。それで、詳しく調べてみたら、花によって蜂蜜の形状も、味も、色も違うことを知り、これは面白いと思い、蜂蜜専門店を立ち上げるっていう企画に入ったんです。自分で養蜂家を探しにいって、蜂にもいっぱい刺されました(笑)。

平本 国によって追求しているところが違うのでしょうか? 先程から伺って面白いなと思うのは、蜂蜜のように全くこちらにない感覚の部分もあれば、包丁とコックコートのようにお互いに求めていたものを共有できていたり。作曲の場合、現在はかなりの部分がコンピューターベースになっているので、ほとんどの人が同じものを使っている。それこそ日本とフランスの作曲家が、ジャンルも音色も全然違っても使っている機材、ソフトウェアは全く同じだったり。

勅使河原 国って、違うようでやっぱり感じ合うようなところは同じ気がするんです。その何十種類という蜂蜜を日本人が買ってくれるにはどうしたらいいかと考えたときに、ワインテイスティングの方式を採用しました。色、香り、味、余韻、加えて、マリアージュつまりペアリング。ヨーグルトに合うもの、パンは食パンやイギリスパンと、ライ麦パンによって分けたり、お料理の隠し味に使えるもの、コーヒーに合うもの、そういうのでチャートを作ったんです。そうすると日本人はどんどん興味を持ってくれて。日本人ってこういうの好きなんですよ、知れば知るほど知ろうとする。ソムリエさんの数も日本はフランスの10倍以上いますし。

平本 え、そうなんですか!

勅使河原 そうなんです。好きなんですね、オタクに突き詰めるのが。

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