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東京を巡る対談 月一更新

村上祐資(極地建築研究者)× 平本正宏 対談 月より遠い南極〜薄曇りの極夜に音は潜んで

<「平本パターン」を知ることで>

――――村上さんは南極へ行き、音のない世界に馴致したわけですよね。逆に、平本さんは東京に潜む雑音性を探求している。つまるところ、おのおの欲する音について対立していると言えるわけですが、そうならば、平本さんの追求した先にある音は、極地に滞在する人にとって気持ちよくなくなる可能性を孕んでいます。そこで、2人のあいだに生じるかもしれない断絶をもたらさないような音楽のあり方があるのかどうか、お話しいただけませんか。(間坂言)

村上 実は、いただいた「TOKYO nude」のなかで、どうしても受けつけない曲がありました。たしか6曲目の「moment5」だったと思う。ほかは音楽として聴けるのに、これだけが南極から帰ってきて感じた街の音の不快感と同じ感覚を呼び起こしました。あれは何の音ですか。

平本 「Tokyo nude」には“moment”と“movement”という2つのセクションがありまして、“moment”では東京で収録した音の、ある瞬間だけをコンピュータ・プログラムでフリーズさせて作った音を中心に使っています。特に「moment5」は高周波成分を多く含ませているから、全体的にキーンと感じる曲だと思います。しかも展開が速くバタバタしているので、ある意味、東京の忙しなさに近いのかもしれない。

    なんでこの音が引っかかったのか、村上さんに伺いたいです。どういう感覚を持たれたか、具体的にお聞かせ願えませんか。

村上 比喩的だけど、耳に繋がってる糸をぴーって引っ張られてる感じです(笑)。音の迫りと、自分から何かを引っこ抜かれるような感じが混ざっていました。なんだろう、圧迫感……のようなものがあった。

平本 圧迫感は意図的に出しています(笑)。

村上 僕も、その曲に感じた不快感の原因をもっと知りたい。音の素材が原因なのか、素材の加工段階で不快にさせる要素が混じりこんだのか。

平本 面白い。一緒にCDを聴きながら、ここは不快だ、とかポイントを拾ってほしいなぁ(笑)。村上さんが街の音に感じる不快感が、何かを発見することができるかもしれないし。

村上 平本さんは「With you」のようなピアノ曲と「TOKYO nude」の電子音を、振り子の要領で行き来したいとおっしゃるけど、その振り子の描く軌跡というか、「平本パターン」を解き明かしたいな。

    たとえば僕が極地で環境音を録ってきて、平本さんのアレンジで楽曲にしてもらうとする。生まれてきた楽曲はもちろん、音の加工段階にも平本さん特有のパターン、癖のようなものが見出せるはず。その一端でも垣間見られたらと思うし、また、それを本人が認識しているのかどうかも気になるところだ。

平本 僕に特有のパターンがあるのは確からしいです。自分の家族も含め、僕の曲を長く聴いてくれている人が何人かいて、彼らに言わせると、そうらしい。けれど、自分ではそれほど意識してないんです。

村上 南極の極夜で、音を鋭敏に意識するようになったのも、もしかしたら僕のなかにあったパターンが、極地環境によって変成させられたからかもしれない。そういう思いがあるから、平本さんが極地へ行ったらどうなるのか興味がある。

平本 だから、ヒマラヤに行けと僕を誘うんですね、富士山さえ登ったことないのに(笑)。

    極夜のとき、周りの人も村上さんと同じ感想を持っているようでしたか。

村上 いや、みんなじゃないと思いますね。直接聞いてないから、わからないけれども。

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