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東京を巡る対談 月一更新

村上祐資(極地建築研究者)× 平本正宏 対談 月より遠い南極〜薄曇りの極夜に音は潜んで

<音楽はコミュニケーション・ツール/音を求めて山か宇宙へ>

村上 平本さんのCDを聴いて、ボイジャー探査機のゴールデン・レコードに思いを馳せました。そこには画像のほか、波や風、動物などの自然の音が収められていて、未知の生命体に向けたコミュニケーション・ツールの役目を負って宇宙を旅しています。平本さんの今回作られたCDも、曲そのものを聴くというよりか、これはどこで録った音なのかとか、どういう意味を担っているのだろうかとか、想像しながら聴くことができるものでした。

平本 作曲するときは、自分が一番惹かれるものは何かということだけを追求してるんです。13歳で作曲しはじめたとき、こんなに狭い世界で作曲しないといけないのかと疑問に思っていました。どう狭いかと言えば、メロディと和音と拍の3つの要素を入れないと、曲は成り立たない。そのことへの違和感が拭えなかった。それが大学に入ってノイズ・ミュージックに触れ、その3大要素に縛られない、人間の耳だけを頼りにした音楽があるんだと知ってハッとなった。そのとき以来、音楽を制作するときには、自分がいかに興奮するかしか考えてません。

村上 ゴールデン・レコードは、相手が未知の生命体とはいえ、一応誰かに聴かせるというコンセプトを基にしているわけだから、平本さんの音楽の作り方とは正反対になっていると言える。

平本 とはいえ、独りよがりではありたくないので、音楽の歴史を勉強し、ジャンルを選ばず聴くようにはしています。それから、音楽は人間にとって一体何なのだろうと常に問い続けている。

村上 僕は、音楽とはコミュニケーションだと思う。ネパールの人はすごく歌が好きで、山では「レッサンピリリ」という歌を歌うんだけど、サビ以外は即興で変えてしまうんですね。誰かが口ずさむと、俺も俺もと即興「レッサンピリリ」が続いていく。それって、登山しているいまの心境がおのずと歌に乗ってきているからなんだろう。つまり音楽は、聴いている環境とセットで、人の心に浸透しているんじゃないでしょうか。

    また、南極のような隔離された空間では、限られた人数でリスキーな計画に挑む機会がどうしてもあって、そうしたときは全体で息を合わせる必要がある。それは会話によるコミュニケーションだけでは難しいんだけど、みんなで同じ楽曲を聴くと不思議と作業のリズムを合わせることができましたね。

平本 一方、そういうコミュニケーション・ツールとして以外にも、音楽の役割がありそうな気がする。聴いたことのない音に触れたとき、何かしら人間は反応するじゃないですか。だからそっちの、新鮮さの方向でも音を追い求めたいんですよね。

村上 やっぱり、一緒に登山するしかありませんよ。夜の山の音を聴いてみて欲しい。そこには未知の音が存在していますよ。

平本 いずれは宇宙ステーションのなかの機械音も聴いてみたいですね。

(構成/間坂元昭)

 


村上祐資(極地建築研究) Yusuke Murakami

1978年生まれ。極地建築研究。
主 なエクスペディションに第50次日本南極地域観測隊(2008-2010)、富士山測候所(2010)、エベレストBC(2010)、シシャパンマ BC(2011)など。展覧作品に  “INTO SPACE” 2003/日本科学未来館 、OPEN SPACE2009 “MISSION G : Sensing The Earth”/ICCなど。著書に 10+1 No.46 「宇宙建築、あるいはArchitectural Limits」(共著)/INAX出版など。2011年7月より文化学院にて”連続講座&研究会「スイーツよりペン──生きる・東京・未来」”、2011 年10月より巣鴨小学校、amuにて”秘密基地をつくろう”ワークショップを開講予定。ウェブサイト:http://www.fieldnote.net/

 

対談終了後、左から平本、村上祐資、間坂元昭
撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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