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東京を巡る対談 月一更新

粟田大輔(美術批評家)× 平本正宏 対談 「東京」を形作る条件

<解析の作法>

平本 今回の作品のことを言うと、まず収録、次に解析、そして解析結果に基づいて加工する、この3段階があり、その後にようやく作曲に至ります。この作曲という作業は全体の3割くらいで、収録・解析作業の割合が大きく感じました。

粟田 リサーチと解析の段階をどのようにフィードバックさせるか、そのあたり、どのように意識化されていたんですか。

平本 音を録っていくうちに、ある種の条件と、それによって録れる音が繋がりだします。最初はランダムに収録しに行きますが、そのうち、これぐらいの人の数で、こういう建物が建っていて、道路が近くて、というように条件を揃えることで、どういう音が録れるか、解析するときにどういう周波数が強く出るかなどが予想できるようになるんです。集まった条件がどういう物を生み出すか想像できるようになる、それまでに溜めた沢山のサンプルがあるから。

    そこで今度は、その想像や予想を参照しながら他の場所へレコーディングしに行きました。

    たとえば、西麻布の交差点あたりなら、車の往来が激しく、首都高があって、周りの建物も高いので、動きの激しい音だけじゃなく残響感にも出会える。録音によってサンプルが増えることで、次の収録場所をどこにするかのイメージに繋がるんです。

粟田 音を録る際に、空間のストラクチャーをどう捉えるかという視点はたしかに面白いですね。たとえば表層的な差異はあっても、ある種、似たような構造になっている場合などもあるんでしょうか。

平本 収録・解析していて面白いのは、構成する要素は同じだが響きが違うヴァージョンと、構成要素は違うが響きが似ているヴァージョンの2つが現れるんです。

粟田 いま、情報を検索するツールは発達しているけれど、今後はむしろ、その情報がどういうものなのかを解析できるツールが増えていくような気がします。音の解析を行いながら、リサーチ(収録)の段階へとフィードバックさせることによって、音質の圧縮度は強まっていきますよね。

平本 リサーチの回数は多ければ多いほどいいというのが、やってみて初めてわかりましたね。数をこなすことで、東京の持つ一面を拾うチャンスが出てくるというか。10か所とか20か所を見ただけではわからなかったであろう、東京という都市の音を作りだす条件が、100か所近く回ったことでわかったという部分がある。

    また、東京の街の音は、すぐに変わりますね。街の音を生みだす条件がそう長く持たない。3年毎に同じ場所で音を録れば、違いを実感できるはずです。

粟田 「東京」はそれこそ改変の速度が速い。

平本 その条件の変化する速度が、一向に衰えないのが、東京の面白いところなのかなあ。

粟田 空間は社会的与件によってつくり出されていると思いますが、リサーチをしながら音の構造で何か気づいたことはありますか。

平本 やはり、空間条件が音には一番影響が大きいと思いました。目の前50センチ先を歩いている人の向こうにすぐ壁があるのか、それとも100メートル向こうまで見通せる視野の開けた場所なのか。公園でも、高い木のあるところなのか、建物に囲まれた狭いところなのかで違ってきます。

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