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東京を巡る対談 月一更新

粟田大輔(美術批評家)× 平本正宏 対談 「東京」を形作る条件


<ノイズの変革性>

粟田 楽器の成り立ちについてもう少しうかがいたいのですが、新しい楽器が生まれてくる背景はどんなものなのでしょうか。

平本 たとえば、低音を出したいがために、弦の太い、ものすごく大きなコントラバスが作られた歴史があります(注・コントラバスの一種で、より低い音の出るオクトバスという楽器がある)。弦を太く長くした結果、あるいは細く短くした結果として、派生的に楽器ができるという歴史です。

粟田 楽器に限りませんが、あるストラクチャーを作ると、そこに別のストラクチャーを記述する可能性が浮かび上がってくる。それらを異質なものとして特化させ、顕在化させることが、ノイズの変革性の持つひとつの機能だと思います。ノイズ=単なる雑音ではない気がする。

平本 その話で言うと、僕はフィールド・レコーディングするにあたって、必ずしも街の持っている音の複雑性を求めているわけではないんです。だから、フィールド・レコーディングにおいては、音の構造の複雑性に焦点を当てずに、その場の中心を占めている条件を捉えることで、はじめて場所全体の複雑性が生きるし、ただのノイズじゃないノイズを提示できるようになる。

粟田 平本さんの例で言うと、収録した雑音をフィルタリングして、足りない音として異質性を強調することがノイズ的な行為なんですね。そういう意味で、新しい楽器を創造することと、いま述べたノイズ的な行為はパラレルな関係にあるんだと思います。

平本 ただ、楽器の凄いのは、それを使って雑音としてのノイズを作るのも、メロディを奏でるのも簡単にできるということです。これに対し、電子音楽をやっているなかで、すべての音がコンピュータ内で生成してしまうことには、物足りなさを感じたりもします。

    電子音楽では、「手仕事」のような微細なことができない気がするんですね。たとえばピアノなら、手が奏でてしまう偶然の音がある。また、「ド」を100回押すと、100パターンの「ド」ができる。だから、その「ド」同士の微細な差を、偶然性を孕みつつ、しかも触覚を伴う形で再現できるようになれば、コンピュータをいじくることが面白くなってくるのかなあと。

粟田 たしかに既存の楽器は、条件が物質的に限定されていることで、ストラクチャーを改変させるようなノイズが意識されやすい。単純にアナログかデジタルかという問題ではないけれど、何でもできてしまうというだけでは、そのものの持つノイズを見過ごしてしまう、とも言えます。

平本 そうしたとき、デジタルのなかでの楽器、コンピュータならではの楽器を考えていくというのが、いまの方向ですかね。とは言え、コンピュータを使って、音楽の別の作り方も模索していかなければならないですけどね(笑)

(構成/間坂元昭)


粟田大輔 Awata Daisuke
1977年生まれ。美術批評。
論考に「榎倉康二における出来事性と層の構成」「書き換えられるシステム」など。
展覧会企画に「vivid material」など。


対談終了後、左から平本、粟田大輔、間坂元昭
撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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