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東京を巡る対談 月一更新

Hajime Kinoko(現代アーティスト、緊縛師、ロープアーティスト、写真家)×平本正宏 対談

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〈異なる分野の経験が生きてオリジナリティが生まれる〉

Hajime 日本の様式美に真・行・草というのがあって、書道で言えば楷書、行書みたいな。真は最初にきちんとしたもの、センターがとれているもの、行はワンポイント崩れている、草は完全に崩れているけれども遠くから見たらちゃんとバランスが取れている、見た時になんとなく納得できるもの、心のどこかで落ち着く汚さみたいなもの。縛りでもそれがあるんです。

後手縛りといってSMの縛り、和の縛りです。(写真集「Red」の表紙を指差し)やっぱりこれも真・行・草の草なんです。ちゃんとバランスは取れているけど崩れている。これもちゃんと狙って玉を作っているし。上の部分は崩れているし、この回転が少し違っていたりすると、ダメですね。で、僕の作品を自分の教え子とかとみんな一緒に作るんですよ。でね、前はこんな大きものは作れなかったんですよ。だけど、僕生花を2年くらいやっているんですけど、お花を習った時にすごいヒントがあって。

以前に、自分が活けた作品を先生に見せたら、先生が、1本のお花をちょっと動かした途端に全部のバランスが取れたんです。あ、こういうことなんだなって。で、それ以来、自分も生徒にある程度バッと作らせるんです。指示を出したらあとは生徒に作らせる。それで、8割くらい出来上がって、縄の物量的にも達成されたら、あとの2割くらいを僕がその部分のディテールを整えながらバババッと作って完成させるという技を身につけて、それからでかい作品が作れるようになったんです。

平本 つまり、一人からチームで制作できるようになった?

Hajime そうですね。生徒にとっても勉強になるし、生徒がたくさんいて作ったから俺も楽しかったですね。

平本 (「Red」の表紙を見て)これは何人がかりで作られたんですか?

Hajime これは6、7人じゃないかな。巨人の時は17、8人体制くらいで、24時間体制で作って、近くにワゴンを置いてみんなで休憩しながら回して作りました。

平本 これだけ巨大になるとやはりそれくらいかかるのですね。生け花は今も習っているのでしょうか?

Hajime いまはお休みをしていて、書道を習い始めました。

平本 すごいですね。習うことは作品に生かされますか?

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Hajime 全然生きますよ。あのね、みんな間違っているのは、縛りの人は縛りを習うんだけど、ある程度までいったら行き詰まるんですよ。ある程度までいったらみんな縛りの先生を替えたりするんです。俺はそれをすごく美しくないと思っているの。それってその人のコピーになるわけでしょ。先生のコピーコピーってなっちゃうので、そうではなくて自分が興味を持っている違う分野のもの、花とかお茶だったりを習うと、そこから得るものがあるから自分のオリジナリティが生まれる。

平本 縛りとは違う、自分がやりたい他の分野を選択するということも、そこで何を選択するかによっても大きく変わってきますよね。

Hajime そうですね。だから俺は生け花をやっている時には、縛りにすごく品が出たりとか、女性の魅せ方についても、エロく魅せるというか色っぽく魅せられるようになったんです。その生け花の先生が77歳のおばあちゃんなんですけど、自分が活けた作品をちょっとだけ直す時に「こっちの方が色気があるわね」って言うんです。お花の角度が縄の角度に応用できたり、さらにお花ってすごいなって思ったのは、主枝、客枝があって、主を魅せるために他のものが犠牲になるんです。縁の下の力持ちのような、そういう考えがあるんですよ。

平本 かなり色々な生け花の要素がKinokoさんの作品に浸透しているんですね。最近習い始めた書道の影響は今出ていますか?

Hajime 書道はね、まだ全然出ていない(笑)。まだ二回しかやっていない。ガキの頃にやっていたんですけど、全然覚えてなくて。なんかね、書道ってすごく縄に似ていて。縛る時にグーッと力を入れると、縛られた部分はへこみますから、相手の心のプレッシャーをそのとき感じ取るんです。痛いのかな、嫌なのかな、と思いながらやるし、気持ちよく感じるのはどれくらいの縛りか、この人のこの性格だったらこのぐらいで縛ろうとか、感じながら縛っています。書道も炭のつけ具合、筆圧の強さを読みながらやるので、縛りと超似ているんですよ。

平本 どのことも、Kinokoさんの中で縛りに還元されていくのですね。今回の書道も縛りに活かそうと思って始めたのですか?

Hajime そうですね。すぐ縛りのためにって考えますね。

平本 生け花も書道も、手を動かす部分が大きいのも重要なのでしょうね。知らない分野で、しかも体を使うとなると、いままでの自分の動きとの比較もできますし、得るものは大きい気がします。

書道の還元はこれからの作品で見られるわけですね。書道はしばらく続ける予定ですか。

Hajime そうですね、2、3年はやらないと見えてこないだろうし。

平本 最後に今後の活動について少し教えて頂ければ。

Hajime さっきさらっと言ったんですけど、休もうかな(笑)。休むっていうか、ホップ・ステップ・ジャンプのステップで、やっぱりステップがないと飛べないからね。でも、みんな怖くて、ステップできないんだろうし。一回全部投げ出して、だけど縄は縛り続けていくって感じでしょうか。

平本 今年のステップを経て、来年以降ジャンプが起きるわけですね。新たな作品楽しみにしています。

今日はありがとうございました。


Hajime Kinoko  / ハジメ キノコ

現代アーティスト、緊縛師、ロープアーティスト、写真家

1977年10月22日生まれ
縛りをエロスと捉えるだけでなく、ポップな解釈やアートへの昇華も得意としている。特に自然(木や岩など)や空間までも縛るユニークな作品性は評価されている。近年はパフォーマンス以外に、写真や映像によるアートワークも精力的に発表。縛りと撮影、演出の全てを手がける。また国内のみならず、パリ、ロンドン、ローマ、ベルリン、シドニー、メルボルン、バンクーバー、ニューヨーク、ロサンゼルス、台北、上海、他、世界中の都市での公演、ワークショップを行っており、海外での認知度も高い。日本を代表する縄のスペシャリスト。

《ロープワーク》
2001 縄による表現に目覚める
2006 様々な修行経験を経て、ロープアーティスト・Hajime Kinoko の名で活動を開始。
2007 海外でパフォーマンスやレクチャーを始める。
2013 ファッションブランド ディーゼルのグローバルキャンペーンにてインスタレーションを行う。
2015 パリの酒ブランド、ヘヴンサケのイベントで世界のセレブリティに和の緊縛ショーを披露。
2016 ファッションブランド クリスチャン ダダのシンガポール直営店のオープニングレセプションにて1200m のロープを使用し、心臓をモチーフにしたた大掛かりなインスタレーションを行う。
2017 アメリカ北西部、ブラックロック砂漠で開催されるバーニング・マンにてオフィシャルアーティストとして全長17m の巨大なロープオブジェを作成。
2019 パリ, パレド トーキョー のアニバーサリーパーティにてアメリカ人の女性ラッパー、ブルーク キャンディとパフォーマンスを披露する。
2018 ニューヨークのセックス博物館、ミュージアムオブセックスで開催された荒木経惟氏の展示にロープアーティストとして緊縛ショーを披露。
※ 2017 年よりコミヤマトーキョーとアートラインの写真作品や立体作品の制作を開始。アートフェア東京、ミラノフォトフェア、パリフォトなどの国際的なフェアに作品を発表、販売も精力的に行う。

撮影:427FOTO https://427foto.myportfolio.com

編集:矢本祥子

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