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東京を巡る対談 月一更新

ヤマザキマリ(漫画家)×平本正宏 対談 時代を行き交う透視図法



<次々書くことのエクスタシー>

平本 あはは。マンガを書き続ける中で変化していったこととかってありますか? 実感としてでもいいですし。

ヤマザキ やっぱり書きやすくなっていくのはありますね。マンガって技術面をすごく鍛えていかなくてはいけないというのがあって、鍛えたからこそもっと昇華していくものってあるでしょ。そういった意味ではいまスムーズに自分の頭に出て来たものを書けるようになってきたっていうのはあるかな。音楽もそうでしょ?

平本 そうですね。確かに作れば作るほど、どういう音の組み合わせがあるかとか、このメロディのときはこの和音の方が効果的だとか、手の内が広がる感じはありますね。ただ、そこを広げるのはいつも、自分がいままで作ったことのない音を作ってみたいっていう欲求なので、その新しい音への好奇心がすべてを支えている感はありますね。

そして、アルバムを作るっていう作業が大きくて、1枚作ると全然違うことがしたくなる。だから、作り終わる度に、ぼんやりと次への指向性がありつつも、さてどうしようかと。

ヤマザキ 音楽は楽器の縛りとかがあるじゃない? マンガは無いからね。完璧アナログだし。

私もじゃあ毎回満足がいったものが書けているかというと、書けば書くほどね、ヤバい今度はもっと盛り込まないとっていう気分になっちゃいますよ。

平本 だから1作目より10作目の方が満足しないんですよね。どんどんどんどん満足しなくなっていく。

ヤマザキ だから過去の作品がなかなか読めなくて、読み返してみる気が起きなくて。やっぱり前にどんどん進んでいくことがエクスタシーなんですよ。作業しているときが最高潮で、できちゃうと「さあ、次の白い紙!」みたいな感じで、いちいち前の作品を見て喜んだりはしない。最初はなるけど、はいおしまいって。

平本 できたときは最高傑作で、何度か聴いているうちに次のアイディアが出て来ちゃう。

ヤマザキ そうですよ。どんどん新陳代謝していって。

平本 その新陳代謝がどんどん早くなるんですよ。

ヤマザキ 来てるときはやっとけばいいんじゃない? 多分速度の変化があるのよ。私もいまワーって来てるから、周りから見たら「頼むからそんなに仕事しないで」とか言われるんだけど、できるからしているんだよね。こういうことしませんかって来たときに出せるアイディアがあるから、それを溜め込むと出せない鼻水みたいになっちゃうし。

平本 出せるとき出さない理由は無いですからね。

ヤマザキ だからいいんですよ。たぶん緩やかになるときが来るだろうし。

平本 僕なんか理想はずっとドライブして最後は死んじゃうくらいがいいんですけどね(笑)。

ヤマザキ どこから絞っても何の液も出てこないくらいのぼろぞうきんになるのいいじゃないですか。本当に肉体を使い切って、見ている人にもそれがわかってもらえるような死に方をしたいね。周りも覚悟するじゃない。

平本 じゃあ、いまはドライブがかかっている感じなんですね?

ヤマザキ そう。で、時間もちゃんと作るからね、日本に居る間は夜のカラオケ大会とか(笑)。

平本 僕も夜酒飲む時間だけはちゃんと作りますし(笑)

ヤマザキ 時間に左右されたくないですからね、関係ないこといっぱいしたいですよね。関係ないことから芽生えることいっぱいあるんだから、もの作る以上は関係ないこといっぱいしないと。

平本 常にアンテナ立っていますよね? どんなことをしているときでも。

ヤマザキ そうそう。だから24時間考えていない時間なんて無いですよ。全く放棄して今日はマンガのこと考えないなんていう日はないでしょ。

平本 今日は赤坂ですけど、どうですか? 東京として見て。

ヤマザキ ここ住んでいる人ほとんど外国人なんですよ。だから私も、日本を客観視する外国人的ポジションというか。一番最初に話した『燃えつきた地図』的な東京観を透視することもできるし、赤坂ってどこか独特な匂いがありますよね。新橋とも六本木とも違う、なんというかちょっと60年代っぽい匂いがしない?

平本 ああ、わかりますね。別に寂れているとかそういう意味じゃなくて。

ヤマザキ TBSとかあの界隈ってそういう感じするよね。赤坂臭というかさ、夜は楽しいよね。いろいろありそうだよね。

平本 いろいろありそうですね(笑)。



ヤマザキマリ(漫画家) Mari Yamazaki

1967年東京生まれ。17歳の時に渡伊。イタリア滞在中にイタリアでの日常生活を綴ったエッセー漫画を描き始める。
その後日本に一時帰国しラジオパーソナリティーや温泉リポーターとしても活躍。
35歳の時に比較文学の学者でもあるイタリア人の夫と結婚。『テルマエ・ロマエ』で2010年「マンガ大賞」「第14回手塚治虫文化短編賞」を受賞。
シカゴ在住

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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