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東京を巡る対談 月一更新

上田岳弘(作家)×平本正宏 対談 喜びと悲しみの表現面積



<早朝の1500字ルール>

平本 人物とは違うんですけど、今作っているアルバムは電子音のアルバムなので、コンピューターで音色自体を作る行為がとても重要で、作曲の8割は音を作ることに注ぐくらい。その音色作りはもしかしたら人物を作るということに近いかもしれません。こういう音を作りたいという漠然としたイメージは持つんですが、コンピューターで色々と試行錯誤しているうちに想像もしなかった面白い音に出会うことがあるんです。

そういうときにその出会いに引っ張られると大体うまく行きます。初期段階で設定していたベクトルとは多少違っても、耳が面白いと判断したものを展開させていく。その際には、もう音の言うことを聞くというか、音が求めている方向に曲も展開させるので、僕もコントロールはしていないのかもしれませんね。

上田 これまでの文脈があって、次の音を探すってことですよね。多分同じです。次の音色を探っていって、こんな感じかなって、どんどんその人物を掘り下げていく感じなので、そういう意味では同じかもしれないですね。

平本 そうかもしれないですね。面白いですね、こういう分野が違うのに行為が同じなのは。

次の音、つまり次の人物って、僕はそれが出るのに1、2日かかるんですけど、上田さんはどうですか?



上田 僕には1500字ルールというのがあって、朝4時とか5時台に起きてですね、会社に行くまでの間に執筆しているんですよ。会社に行くまでの2時間半、すごく粘るか、1500字書き終われば、今日の執筆活動は終わりなんです。そうしなければ今日は終われないっていうルールがあって、1500字書いたら、今日は終われるわけです。1500いってなければ無理矢理でもいいから絞り出していく感じでやってますね。

平本 逆にそういう制限があるからこそ、これを終わらせなければいけないという頭がドライブしていくわけですね。

上田 無理矢理にでもやっていけば、ちゃんと合っていくのが分かってくる。

平本 へー。じゃあその1500字っていう設定もちょうど良かったりするわけですね。

上田 それはまぁ単純に何となくですけどね(笑)。ただ無理矢理書いていく中で、書くべき芯とか、登場すべき人物とか段々と焦点が合っていく感覚はあります。書き進めていく内に、捨てるべきものも見えてくる。

平本 常に出していくっていうのはとても重要だと思います。一番良くないのは頭の中でウンウン唸って1日が終わってしまうことだと思います。音も実際に鳴るものですから、ピアノなりコンピューターなりで鳴らす作業をしないと曲を作るところまで至りませんね。

その書き方で書くと1冊にそんな時間はかからないんじゃないんですか?

上田 あ、その代わりめちゃくちゃ直します。

平本 なるほど。直しを入れる前、最初に結末まで行くのにはどれくらいかかりますか?

上田 200枚くらいだと3カ月ちょっとくらいですね。

平本 その時点で1回行き着いたって感じですかね。

上田 そうですね。でもなんとか概要設計までかなって感じで詳細設計まではいっていないんですよ。骨格ができた段階で。次は詳細設計やりつつ、2回目、3回目ってやりながら足りないポイントとか、いらないポイントをやっていく。

平本 そうすると最終的にはどれくらいになるんですか。

上田 いやぁ、半年くらいはかかるんじゃないですかね。

平本 逆にこれ以上は時間をかけないというデッドラインみたいなものを決めていたりしますか?

上田 あんまりないですけど、これ以上やることはないよねって思うことはありますね。ただ、まだ発表レベルのものをそこまでたくさん書いているわけじゃないので。

平本 次に発表するものはもう決まっているわけですよね。

上田 どうなんでしょう?(同席していた編集者をちらっと見る)ごめんなさい、それはもうしばらく内緒です(笑)。

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