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東京を巡る対談 月一更新

上田岳弘(作家)×平本正宏 対談 喜びと悲しみの表現面積

<早朝2時間半の執筆>

平本 例えば作家によっては何年間も書いてませんでしたっていう人がいるじゃないですか。1冊に何年もかけてしまおうという。そういう感覚はないですか? 5年かけちゃえみたいな。

上田 いや、まだ始まったところなので、まだまだ短期スパンで書きたい欲が今はすごいですね。無くなるまではやりたいですね。ただ本当に厳しい世界ですよね(笑)。

平本 曲を作っていると、無駄に延ばすことの怖さっていうのがあるんですよ。だから時間がかかればかかる程、自分の中で駄作に近づく気がして焦るんですね。

上田 でもすっごく時間をかけたからこそ、良くなったっていうことは経験上あるんじゃないですか?

平本 実はそれは全く無いんです(笑)。短ければ短い程いい印象ですね。映画『さよなら渓谷』の音楽も、あれは作曲に20日間与えられたんですが、それは映画音楽では多い方なんですよ。

上田 え、20日で?

平本 とっても多くて、普通は1週間あるか無いかというぐらいだそうです。小説と違って、曲は作るのが簡単なんです。

上田 それはどういう文脈でですか。時間がかからないという意味ですか?

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平本 時間がかからないです。音楽って思いつけばサッとその場で作れるものなので、実作業としての時間は結構短いんです。もちろん譜面を作ったり、ミックスをしたりということもしなくてはいけないのですが、そういうことを抜いた実際の作曲時間はうまく行けばとてもコンパクトで収まります。だから、時間がかかるということ=クオリティの高さに繋がらないことを知ってるんです。

3週間あると思ってのんびり作っていたら、他の予定の関係で申し訳ないけど1週間でなんとかしてくれと言われて、ウワーと思って作った曲の方が良かったりするんですよ。迷いが無く、勢いがあるので。だから普段から作業時間の使い方というのがとても気になりますね。

平本 ちなみに上田さんの朝2時間半の執筆はどういうサイクルなんですか?

上田 基本的に歯磨きのようにほぼ毎日同じサイクルですね。朝の4時か5時の間に起きて、ちょっとぼんやりして5時くらいから7時半くらいまで書いて、そこからご飯を食べて会社に行く。

平本 すごく細かいですけど、起きた瞬間はコーヒーぐらいは飲むんですか?

上田 コーヒーぐらいは飲みますね。甘い物もちょっと。

平本 それで会社に行って退社後はやらないんですか?

上田 そうですね、映画を見たり、本を読んだり、酒を飲んで寝ますね。

平本 夜にやらないのはなんでですか?

上田 いや、ただ単純に仕事から帰って来ると疲れてるので。頭がクリアじゃないと出来ないタイプなんです。酔っぱらってすごい良いのを書けるっていう方もたくさんいらっしゃるんでしょうけどね。

平本 でも、頭がクリアになるのは確かに朝ですよね。冷静というか落ち着いて俯瞰で自分を見れる気がします。三島由紀夫も小説の執筆は、早朝だったと聞きます。

上田 確かに時間を守ってやるというスタイルが、今のところでは合っていると思います。段々合わなくなってくるかもしれないですけど、現状ではないですね。

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