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東京を巡る対談 月一更新

上田岳弘(作家)×平本正宏 対談 喜びと悲しみの表現面積

 

<規則正しく創作にあてる時間>

平本 今後作家1本でやっていく予定ですか?

上田 会社は続けようと思っています。社会に出て、ほぼ未経験の状態から会社の立ち上げとかやりながらで、いろんな経験をできたんですよね。だから、刺激という意味でもずっと続けたいなと思っています。働き方は変わってくるかもしれませんけど。

平本 そうなんですね。じゃあサイクルが変わることはあっても、1日の中心に会社に行く時間があるっていうのは、変える予定はないんですね。

上田 今のところは無いですね。ただ急に変える可能性はあります。うーん、どうなんだろ?

平本 でも僕も規則正しいので、その規則正しさは結構重要な気がするんですよね。ダラダラやっても駄目だし、ここで必ず終わらせる、ある程度終わりにするって決まっている方が毎日リミット付きで生活しているようで面白いかなと。全然違うことをする時間、犬の散歩とか雑務とかそういう時間も気分転換になりますし。

上田 もしかしたら音楽もそうかもしれませんけど、現状でやり尽くされている感ってあるじゃないですか。その中で感性のほとばしりっていうのだけでは多分もう通用しないと思うんですね。文学においてもきっと、恍惚とか瑞々しさで勝負というのは難しいんじゃないかと思っていて、色々規則正しい方が良いんじゃないかと思いますね。

平本 音楽はそういう側面がある一方で、なんか聞いたことの無い新しい音楽が必ず現れる一面もあるんです。

上田 それはやっぱり技術性が進歩してきたからですか?

平本 それは大きいと思います。あんまり日本国内で起こりづらいんですけど、ヨーロッパやアメリカだと60~80年代のサウンドをリヴァイバルしつつ現代のテクノロジーを加えることで新しい響きが生まれることがよくあります。時代を少し遡るんだけど、遡った時に自分たちが現在使っているツールを面白く混ぜ込むことで次の時代を作る感覚で。そういう新しいものが常に世界のどこかで生み出される状況が音楽の中にはあるので、面白いですね。

そろそろお時間になってしまったので、最後に夢の島を選ばれた理由をお聴きできればと思います。

上田 そうですね、次回作の東京のシーンの一つであるということと、ゴミが島になって土地になってというのが、ある種都市的でもあるし。それが面白いなと思っていたり。

平本 ここに注目され始めたのは次回作の為ですか、それとも以前から?

上田 実際訪れたのは、次回作の取材の為ですね。言葉として“夢の島”というのが面白いなとはそれより以前から思っていました。

平本 ゴミの島を夢の島っていう名前にしてしまうのも面白いですよね。なんともシニカルで、加えて何かを隠蔽するようでもあって。これが東京を象徴していた時代もあるんだろうなと思ったりします。

次回作も大変楽しみにしています。今日はありがとうございました。

上田 ありがとうございました。

協力:江木裕計 氏、田畑茂樹 氏


上田岳弘 Takahiro Ueda

1979年兵庫県生まれ。作家。早稲田大学法学部卒。
2004年より法人向けソリューションメーカーの立ち上げに携わり、現在も同企業で勤務する。
2013年「太陽」(第45回新潮新人賞)でデビュー。同作で第27回三島由紀夫賞候補となる。

小説:
「太陽」(「新潮」2013年11月号)
「惑星」(「新潮」2014年8月号)


書評:「領土拡張の要請」(「新潮」2014年2月号)

(ミシェル・ウエルベック著『地図と領土』評)

随筆:「泡」(「すばる」2014年2月号)

「時として、実感は」(「文學界」2014年5月号)

撮影:moco  http://www.moco-photo.com/

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