指先が未知の感覚を手繰り寄せるように曲が生まれていった
・TPを制作するときに、いちばん楽しかった出来事はなんですか?
H:全曲即興で演奏しているので、自分でも思いがけない、それこそ自分の作曲経験値に無いような曲が出てきた瞬間は興奮しました。演奏しながらレコーディングもしているんですが、あとで聞いてみて、よくこんな演奏ができたなと自分でも驚くことがしばしばでした。
・興奮しているときのひらもんの鼻の穴の大きさをみたかった!(笑)
ちなみにどの曲のどの部分が、自分でもこんな演奏ができたなと驚いたのかをお聞かせください。
H:これは細かすぎて答えられないです(笑)ただ、どの曲にも必ず数カ所そういう部分がありました。作曲的に思考することを飛び越えて、指先が未知の世界を手繰り寄せる感覚になりました。
・そうすると、実際にコンサートでひらもんの表情と鼻の穴の大きさを見て、「あ!ここは驚く箇所だ!」と感じ取ってみますね。
H:やってみて下さい(笑)
・TPを制作するとき、いちばん苦しかった出来事はなんですか?
H:前の質問の答えと表裏一体なのですが、即興がうまくいかないこと(笑)即興に慣れてくると、自分の中に演奏の型というか、展開の定型みたいなものが構築されてしまい、それに流されやすくなることがわかりました。その型は、流されてはダメだし、流されないように意図して何かを狙い出すと途端に即興の面白さが消え失せてしまう。いやらしく狙うんではなく、自然な流れで即興のバリエーションを増やす工夫をし続けなくてはいけないのが楽しくもあり、苦しくもありました。
でも、それによって自分の演奏語法の小ささもしれましたし、その拡張もできたので結果的には大きな収穫になりました。
・即興作品の1作目にして、すでに大きな成長を経験できたのですね!
これまでの自分の演奏語法が、1(イチ)だったとしたら何倍くらい拡張できました?
たぶん、いままでにない即興のバリエーションを追加できるようになったと思うのですが、そういったバリエーションを増やすことができるようになった秘策を聞かせてください。
H:どれくらい拡張できたのですかね、うーん、どれくらいだろう。10にも20にもなった気はしています。即興なので思考している暇がないですし、あとはいままで作ってきた曲のようなものから遠ざかりたい思いも相俟って、尚更バリエーションは増えていった気がします。
秘策は、簡単です。色々な曲を聴くことでした。
・秘策、確かに!バリエーション=色々な曲、だもんね。
H:自分の所持する情報が多ければ多いほど楽曲が豊かになるタイミングが作曲にはあって、「TOKYO PIANO」ではフィールドレコーディングした音を聞きながらピアノを即興演奏するというスタイルが決まったときに、色々な曲を聴くようにしました。発想のヒントが沢山得られました。