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東京を巡る対談 月一更新

若林幹夫(社会学者)×平本正宏 対談 未来の遺跡TOKYOから見えるもの

<周囲から切断された内向きの街>

若林 今回の対談のお話を頂いたときに、東京のどこに行くかということを迷いまして。東京を感じる場所を選んでくれと言われて、僕は都市論をずっと仕事にしているから色々な場所に行くじゃないですか。そうすると自分にとっての「東京ってこれだ!」って1つ選ぶのってすごく難しくて。個人史的に行くと例えば、町田だったり、学生時代に過ごした渋谷や松濤、駒場もあるし、浅草っていうのもあるかもしれない。

で、東京のある部分がすごく純粋にできている場所って、ここら辺じゃないかなと思ったんですよ。今日ここに来て異様な感じがしたと思うんですけど、でも実は僕らは東京を普通に動いているときにもね、途中の移動するプロセスは余計なものにしてしまって、ポイントポイントで基本的には動いているんじゃないかなと思うんですよ。

ただ既存の街が出来上がっているので、それが風景として現れているけど、実は僕らはそんな街をただ通過していることが多くて、地下鉄なんか乗っちゃうとそうじゃないですか。だからそんな移動経路上の街のことを僕らすごく知らないと思うんですよ。経験の次元ではここと同じような空間が広がっているんだけど、それよりも前に出来上がった過去の空間の地層みたいなものがあるので、僕らは街の中を歩いている感じがしている。でも実質的にはこことあまり変わらないように動いていることが多いんじゃないかと思います。

平本 そうですね。すでにそこに道や街並みがあるからそこを意識しているかのような感覚/錯覚はあっても、ただよく見てみると行動としては一緒かもしれないですね。ブラブラすることが目的だったら別ですけど、目的地以外はあまり接していないですね。

若林 ここ3年くらいショッピングモールの研究を若い人たちとやっていて、今日見てきたところもいくつかは実際にショッピングモールですけど、どの場所もものすごくショッピングモール的だなと思うんです。ショッピングモールって、施設の内側に街を作るものだから外側はすごく素っ気ないですよね。で、壁だけバーンってあって、ユニクロとか入っている主要な店舗の名前が外壁にポンポンポンと書いてあるだけで。でも、その内側に行くと街みたいな空間が出てくる。

そうするとショッピングモール的なものってつまり、都市空間の中にあるんだけど、都市空間に背を向けてしまっているんだと思うんですよ。僕が最初にそうした手法を認識したのは恵比寿ガーデンプレイスなんですね。恵比寿ガーデンプレイスって、『東京スタディーズ』にも書きましたけど、90年代の初め、1994年のオープニングの2日目に行って、当時パルコが出していた雑誌の『アクロス』でルポを書いてくれと頼まれていたんです。名前には恵比寿と付いているけど、恵比寿ガーデンプレイスは恵比寿の街と全然繋がっていないなと思って。駅からのガーデンウォークっていう動く歩道も周囲の景色を遮断しているでしょ。それでガーデンプレイスに出ると、周りの街と全然繋がっていなくて、シティーウォールっていう壁があったりして、「水と緑の複合都市」っていうキャッチフレーズだったんですが、完全に内側を向いていて、内側を1つのワールドというかたちで作り上げていて。


(今回立ち寄ったヴィーナスフォート)

僕、恵比寿の街って友達の事務所があってそこで読書会したりしていたので、学生時代から結構行っていて、好きだったんですよ、色々なお店がごちゃごちゃってしていて、まさに街でしょ? そこにガーデンプレイスができたときに街と繋がらない場所を都市だと言って作っちゃうっていうのは、なんなんだろうなと思って。

でも、その手法っていますごく一般化していると思うんですよ。六本木ヒルズなんかもそうで、六本木ヒルズは都市を造るって言ったでしょ? でも、東京の中で都市を作るって何なんだろうって思うんですよ。で、あれはまた六本木の街にある意味で背を向けているっていうか、あの内側が1つのワールドになっちゃっているでしょ。平本さん、昔あそこにWAVEってあったの知っているでしょ? 僕、WAVEすごく好きで、あの頃よく六本木に行っていて、バイトの関係で東大の生産技術研究所に行くっていう用事があったのもあるんですけど、シネ・ヴィヴァンで映画観て、WAVEでCD買って新しい音楽を知ったみたいのがあって。で、気がついたらね、あれが無くなっていて、何ができるんだろうと思ったら六本木ヒルズができて(笑)、だから、そのせいもあって六本木ヒルズって「うーん」って思っているところがあるんですけど。

で、あれも都市って言っているのに、都市空間から切断することによってある種の場を作り上げようとしている。そういう手法ってこの20年ぐらいの間に一般化していったんじゃないかと。ショッピングセンターっていうのはそれのもっとポピュラーになった形態だと思うんですよね。ららぽーと東京ベイなんて、周りは何も無いでしょ? みんなあそこにすーって吸い込まれて。そういう空間って、実は僕らの生活圏に沢山ある。ヒカリエなんかもそういうのだと思います。

平本 そうですね。ヒカリエもダイレクトですし、ミッドタウンや表参道ヒルズも。最近の大型施設は全部そうですね。

若林 そうでしょ? 芸大の助手さんとヒカリエができたときに話したのは、あそこができたら渋谷の街に行かないかもしれないということなんです。あそこで用事が済んでしまうから。

それは80年代にパルコが渋谷を、パルコの外側までパルコ化していったっていうことと逆のベクトルだと思うんです。

平本 あのときは外に外に、向かっていったわけですよね?

若林 そうそう。どちらも演出していくという意味では一緒なんだけど、パルコはパルコの内側を都市空間のようにしながら、同時にパルコ的なものを外側に配置していって、都市空間自体を演劇的に演出していったんだと思うんですよ。だから、渋谷の街って面白いっていう風になっていった。

でも、いまヒカリエができたから渋谷の街が面白くなったというのでは無くて、ヒカリエが面白いわけでしょ?

平本 そうですね。それと連携、連動して渋谷の街が面白くなっていったということは起きていないですし、ヒカリエ自体の演出にそういったことは盛り込まれていませんよね。

若林 そうなんですよ。それはやっぱり、現代のショッピングモールの街に背を向けるやり方とすごく似ているなと思って。そういうことが、ものすごくデカイ規模でできあがっちゃっているのが、ここだと思うんですよね。

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