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東京を巡る対談 月一更新

若林幹夫(社会学者)×平本正宏 対談 未来の遺跡TOKYOから見えるもの

<スターバックスの数が都市性を決める>

平本 ショッピングモールはどうなるんでしょうかね、この後。ショッピングモールを経て、都市空間がどうなるのか。都市はどこにいったのか? と先生も先程おっしゃっていましたけど、そういうことを含めて気になります。

若林 どうなるんでしょうね。むしろ普通の商店街をモール化しようっていう事業があるんですよ。タイルをきれいに貼って、電柱をなくして電線を地下化して、ストリートファニチャーやオシャレな地図、オシャレな街灯なんかを用意して、安心で安全な街を作る。もちろん、普通の街をそうするわけだから、ショッピングモールみたいな完全なコントロールは利かないですけど、でも、ネットで“商店街 モール化”って調べるといっぱい事例が出てきますよ。ただ、それをやるとどこも似たような街になるんですよね。

平本 いつぐらいからそういう事業が起き出したんですか?

若林 ここ10年くらいだと思いますけど。モール化っていう言葉はもう普通に使われています。例えば川越の商店街っていま「クレアモール」って称しているんですよ。そういうものの代表格ですね。あと、富山にも「大手モール」っていうところがあって、「大手モール駅」っていう市街電車の駅もある。

平本 モール化することによって獲得したいことは、商店街が持つネガティブイメージを変えていくっていうこと以外に何かあるんでしょうか? ショッピングモールとの関係といいますか。

若林 あると思います。ショッピングモールのようにトータルな管理はできませんけど、いままでの商店街よりも全体としてイメージをコントロールしていこうっていうのがあるんだと思います。で、今風のオシャレな街にするんですけど、そこにスターバックスやGAPとかが入ってくるから、そうすると本当にショッピングモールみたいになっちゃうんですよ。

平本 スターバックスの効果ってすごいですよね。県内のスターバックスの数でオシャレ度/都会度を競うみたいなテレビ番組がありましたが、スターバックスが入るだけで商店街の雰囲気がちょっとオシャレになる。僕の地元の吉祥寺は商店街の中にはスターバックスは無いんですが、吉祥寺だけでも4店舗あって、土日祝日なんかいつでも満席です。話はそれてしまうかもしれませんが、スターバックスのそういう雰囲気作りのためのデザイン的特徴ってあるのでしょうか?

若林 カラーリングが特徴的で、ハッキリしていますよね。スターバックスをわが町へっていう活動もありましたよね。長野には無いから欲しいなんて話もありました。でも、そう考えると東京性を担っているのはスターバックスとも言えるかもしれませんね(笑)。でも、あれは元々シアトルだから、都市性なんですけどね。

そういえば3年くらい前に僕の生まれ育った町田に講演をしに行く機会があって、町田の町づくりをされている方たちと町田の商店街を歩いたんですよ。町田はABCマートも109もタワーレコードもあるじゃないですか。で、「ショッピングモールにあるようなお店が増えましたね」と話したら、「このあたりではもう物販は個人商店では難しいんです」と教えられました。

僕は駅の方の商店街も小学校が同じ学区域だったので、友達の家がやっているお店があったりして、中にはまだ続けているところもありますけど、そういうところはもう店じゃ商売になっていなくて、不動産でお金を稼いでいると言っていました。で、物販で比較的人が来るのは、若い人がやっているセレクトショップ、あと飲食店はなんとかできてるみたいですね。だから物販が個人で難しくなると、どんどんショッピングモール的になっていきますよね。街の喫茶店がなくなってスターバックスになり、街の靴屋さんがなくなってABCマートになる、というように。

で、モール化した商店街がいいなと思う感性って、ヴィーナスフォート的なものがいいなと思う感性と同じだと思うんです。だから、僕らの身体でお台場歩いてみると変だと気づくけど、ゆりかもめでモールに直接訪れる身体性の方が僕らにとっては普通のものになりつつある。そういう風に僕らは都市を生きてしまっていると思うんですよ。そうすると、平本さんがおっしゃったように「つまんない」となってしまう。

そうなると、街の音も無いでしょ? モールのサウンドは作られたものだから。

平本 ショッピングモールのBGMを専門で作る人がいるくらい、音楽が管理されているじゃないですか。それこそ、有線放送で何かを流すのではなく、このショッピングモールの音楽を作曲家に依頼しているわけですよね。そうなると、偶然性というか、思いもしない、コントロールできない音が入り込むということが無くなってしまう。

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