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東京を巡る対談 月一更新

若林幹夫(社会学者)×平本正宏 対談 未来の遺跡TOKYOから見えるもの

<TOKYOは未来が破綻した遺跡>

平本 今後のご予定はいかがですか?

若林 先程お話ししたショッピングセンター論が夏頃出版予定です。あと、これから本腰入れなきゃいけないのは『未来の社会学』っていう本を執筆しています。

未来って「未だ来ない」ものだから、どこにも無いでしょ? でも人間って未来を考えて生きる存在じゃないですか。それで、未来がどんなものだとか、未来をどう考えていくかは社会によって随分違っているんですね。たとえば、伝統的なアフリカ社会においては、西洋的な、近代的な長いスパンでの未来は現実的なものじゃないんですよ。そもそも民俗社会だと、社会って変わっていかないから、むしろ既に起こったこと、繰り返し起こることに意味があるんですね。そうじゃない未来を考えることにはあまり意味が無くて。江戸時代の人だって、僕らが考えるような未来って考えていなかったと思うんです。

でも、近代社会って未来を持つ社会じゃないですか。で、臨海副都心は未来が破綻した遺跡みたいなものだと思うんです。つまり、副都心を作って、世界都市博をやって、それを起爆剤にして未来都市みたいなものを作ろうと思っていたら、青島さんのときにそれが中止になってできなくて、未来の欠片がありますって感じの場所なっちゃった。だから、20世紀の未来の行き止まりの遺跡みたい。

平本さん何年生まれでしたっけ?

平本 1983年です。

若林 ということは物心ついた頃の景気は?

平本 悪かったですね。

若林 そうか、そうか。そうだと、21世紀が良くなるなんて思っていなかったでしょ?

平本 そうですね。だから、物心ついたときから不況だったので、現在に対する絶望感や失望感も大して無いんです。

若林 ああ、なるほどね。僕らなんかは21世紀になったらね、エアカーが走っている予定だったわけ、で、火星とかに行けるって本当に思っていたんだよね。そういう未来図を描いて生きてきた。でも、そういう未来図は無くなったんですね。

じゃあ、みんな未来から解放されたのかというと、未来って1つの希望だったと思うんだけど、同時にみんな未来にすごく囚われていたと思うんですよ。頑張って働こうとか、日本のためにとか。そういう未来が無くなったときに、清々しくなったかというと全然そんなことなくて、キミの未来はキミが責任を持ちなさいと今度は言われるようになってしまった。自己分析して、会社の就職のときも「会社のためになにかやってくれるか?」と。将来設計と自己分析とリスク管理がすごく重要なことになっているわけじゃないですか。結局、未来には囚われ続けているんですね。

未来って人間にとってプラスになることもあるけど、ものすごく抑圧的になるときもあるんですね。

平本 未来が重みになって、現在の行動が狭められることは沢山ある気がしますね。

若林 いま小学生でもキャリア教育とか、キャリア設計を考えるとかするわけじゃないですか。

平本 僕、教育実習に行ったときにその生徒から、なんで作曲家になるんですか? そんな未来の見えない職業をなんで選ぶんですか? って高校1年生に言われて、エーって思ったことあります。未来を危険視しているというか、危機意識というかそういうものを強く感じたんです。

若林 その一方で教育は夢を持てって言うんだよね。

平本 言いますね。

若林 うちの子供今度小学校卒業するけど、やっぱり文集で“あなたの夢は?”って。で、「なんて書いたの?」って聞いたら「神」って(笑)。「不届き者ー」って(笑)、キリスト教の国だったら問題だねと。でも、夢持てないとダメみたいな。そういう考え方から抜け出した方がいいんじゃないかなと思っていて、僕は社会学者だから現実を分析するのが仕事ですけど、でも、人間にとって未来なんてものは世の中が作った語り口に過ぎなくて、でもその語り口がいかに人を動かしてきたのかみたいなことを考えたいなと。

未来を人が考えてしまい、それが社会の中で共有されてしまい、それによって人が動いてしまったということについて社会学的に考えたいなと。

平本 映画『バックトゥーザフューチャー part2』の舞台となった未来って2012年なんです。80年代まで未来像はファンタジックだったんだなと思ったんですが。

若林 でも80年前後くらいから未来像は暗くなってきたと思うんです。SFで描かれるような未来、映画『ブレードランナー』なんてそうですけど、ものすごくハイテクだけど暗い未来。それが段々ハイテクじゃない未来になってきた(笑)。

平本 映画『12モンキーズ』だって、その元となった映画『ラ・ジュテ』、映画『JM』も、サイバーパンクは特に日本的な場所が舞台で、黒い雨が降っていて、地下都市で暮らしていたりしますね。

若林 その一方で20世紀半ばで夢見ていたもののある部分は実現していますけどね。携帯電話など。昔のSF見るとダイアルで電話かけていますもんね。『ウルトラセブン』だって未来の話で、時計に組み込まれた無線で会話しているのに、電話はダイアルですからね(笑)。

平本 その本はいつごろに出版ですか?

若林 今年中には出したいなと思っているんですけど、あと『都市論を読む』っていう読書ガイドも書くつもりですし。

平本 結構お忙しいですね。ご多忙だと思いますが、著作楽しみにしています。本日はありがとうございました!


若林幹夫 Mikio Wakabayashi

社会学者。専門は都市論、メディア論、時間・空間論。
1962年東京生まれ。早稲田大学教育・総合科学学術院教授。

著書に『都市のアレゴリー』(INAX出版)、『漱石のリアル』(紀伊國屋書店)、『郊外の社会学』(ちくま新書)、『社会(学)を読む』(弘文堂)、『東京スタディーズ』(吉見俊哉と共編著、紀伊國屋書店)など。

<お知らせ>
この4月に、1992年に出した私の最初の本『熱い都市 冷たい都市』の増補版が出ます。建築家の南泰裕さんが、素敵な解説を書いてくれました。
他にも、この対談でお話したショッピングセンター論や『未来の社会学』、都市論の読書案内などを出していくので、よろしくお願いします。

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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