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東京を巡る対談 月一更新

若林幹夫(社会学者)×平本正宏 対談 未来の遺跡TOKYOから見えるもの

<街の外が巨大に余白化されてゆく>

平本 街の音ってフィールドレコーディングしていて思うんですが、コントロールできない音の象徴みたいなところがあるんです。人や車の動作音やそれぞれのお店が鳴らしたいBGMなど、それぞれが行動した結果出てきた音が積み重なっているので、とてもカオスで。でも、それでこそ街の音が出来上がる。

若林 いしかわじゅんさんの『憂国』ってマンガ知ってます?

平本 存じませんが、いしかわじゅんさんはよく近所で散歩されているのを見かけます(笑)。


(いしかわじゅん著『約束の地・憂国』)

若林 ああ、吉祥寺でしょ?(笑)『憂国』って政治パロディマンガなんですけど、民謡界の百恵ちゃんと言われた金沢明子が危険思想として禁止された世界の話なのね。金沢明子って「イエローサブマリン音頭」とかを歌っていた人なんですけど。そこに金沢爆弾っていうのが出てきて、時間になると金沢明子の歌を流す、要はタイマー付きのテープレコーダーなんだけど、時々その金沢爆弾が街に仕掛けられるわけ。で、オチはくだらないんだけど、危険思想として禁止されているから、みんな金沢明子を写真ですら見たことが無いわけ、それで捕まったテロリストが金沢明子の写真を見せられてショックを受けるっていう(笑)、最後は金沢革命が起きようとするんだけど、転向したテロリストが「やめろみんな!金沢明子はブスなんだ!」っていうの(笑)。いや、私が金沢さんのことをそう思っているわけじゃないですよ。

平本 歌声からするお顔のイメージと現実はすこし違っていたというわけですね(笑)。

若林 なんでそれを思い出したかって言うと、ショッピングモールでサウンドテロをやったら面白いかなと思って。平本さんの『TOKYO nude』を流すの、仕掛けて、大音量で(笑)、ゲリラライブじゃないけど。

平本 それはやってみたいですね!

若林 今の都市空間ってサウンドの全体主義でしょ? サウンドで管理して。それこそマリー・シェーファーが言っていた音の壁に我々は包まれてしまっていて。そこに作曲家がサウンドのテロを起こして、穴をあけるっていう。

平本 でもあれほど管理されているとそれを壊したくなる気持ちは出てきますよね。でも、僕の『TOKYO nude』流すと、スピーカーの故障とか思われたり、僕が嫌われ者になりそうですけどね(笑)。

モールの音楽ですが、なんでどこのモールもファンタジックな音にするのかが不思議ですね。ディズニーランド的というか、もう少し各モールの特徴だったり、音の面での世界観の作り方を多様化したほうがいいんじゃないかと思うんですが。

若林 音楽として突出させないっていうのは何かあるんでしょうね。今日ずっと歩いてきて、余白化されている都市空間がこれほどデカくなってしまうとかえって清々しいというか、モール空間が露骨に演出されている一方でそれらの余白があっけらかんと存在している。

平本 建物と建物の関係がない分、空間を押し付けてこないというか。

若林 実は僕らは普段の生活の中でも、モール的な管理された空間がもっと狭い間隔で並んでいるところを歩き回っているだけで、その間がガーッと広がっちゃうと、その管理された空間の孤立性と内向性と、その外側が何も無いということがすごく良く見えちゃう。今日行った夢見橋の上とかもすごく爽快だなと思いましたけど。


(夢見橋の上からの風景)

平本 あの爽快さは、ここに来ないと感じることのできない爽快さですよね。何も無い空間がむき出しになることでしか感じれない爽快さだと思います。

若林 ただ、いつ来ても人があまり歩いていない(笑)。

平本 全行程で10人ぐらいとしかすれ違いませんでしたしね。

若林 そういう意味でも東京のおススメスポットなんですよ。

平本 スケボー禁止でしたけどね。

若林 スケボーテロとかあったりしてね(笑)。

平本 でも、この空間はテロリズムが意味をなさないなと思いました。

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