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東京を巡る対談 月一更新

若林幹夫(社会学者)×平本正宏 対談 未来の遺跡TOKYOから見えるもの

<ロールプレイング化する都市>

平本 『TOKYO nude』を作った後にしばらくして、改めて東京をどう見ていこうかと考えたときに、こういうと言い過ぎかもしれませんが、最近東京という街が少しつまらないなと感じることがあるんです。ちょっと前まで、秋葉原や町田のように、みんながそこに集まるわけではなくても、何か面白い変化が起きている場所が常にありましたが、ここ1年くらいそういうことが東京全体で起きないという印象があって。

若林 平本さんの場合、最近まで面白い東京はどこだったんですか?

平本 そうですね。『TOKYO nude』をきっかけにして面白いなと思ったのは、町田、小田急線側が変化し始めた下北沢、あとは近年のアイドルブームを作った秋葉原ですかね。この街が面白いっていうのは無くても、「今この街が変だ」みたいな現象はあった気がします。

若林 その意味では、アイロニカルな意味で、ショッピングセンターやショッピングモールはいまの東京を代表しているなと思うんですよ。普通の意味での出来事っていうのは何も起こらなくて、完全にコントロールされている空間だから、疑似イベントしか無いんですよね。でも、ハプニングが起こらないようになっている、危ないものや怪しいものはないわけだから。例えば昔、恵比寿地球座っていう映画館があって、ここは日活ロマンポルノの映画館なんですけど、確か高3のときにはじめて見たんじゃないかな。で、そういうものは無いわけじゃない? シネコンには恵比寿地球座は無いわけだから。

そういうところで昼間からくだまいているおじちゃんたちは、ショッピングモールにはいないわけでしょ? そういう意外なものが起こらなくて、怪しい店は無くて、管理されていて、なおかつショッピングモールで働いている人って人格として働いているわけではなくて、役割として働いているんですね。

平本 ディズニーランド的というか、ロールプレイング的というか。

若林 そうです。日本ショッピングセンター協会っていうのがあってね、そこの全国大会を毎年やっているんですよ、横浜で。ここ3年間僕は行っていて、そこでのイベントで「接客ロープレコンテスト全国大会」っていうのがあるのね。

平本 なんですか! それは?(笑)

若林 各地のショッピングセンターで、接客のロールプレイングのコンテストがあって、協会はその教育とかもやっているんですけど、各地を勝ち抜いてきた、各ショッピングセンターの代表が一同に集まって、パシフィコ横浜の舞台の上で、接客のロープレをやるんです。で、お客さんは劇団の人がやって、シナリオは無くて、みんなが見ている前でやるという。僕DVDも持っているんですけど(笑)。

平本 DVDが出ているんですか!!


(対談当日に行われていた2013年の全国大会を収録したDVD「第18回ロールプレイングコンテスト全国大会」)

若林 研修用のDVDなんだけど。で、そのロールプレイング大会のパンフレットを見ると、お客様と素敵なときを過ごしたいみたいなことが書いてあるんです。

でも、そこで出てくるのって「人格」としてのその人ではなくて、キャラクターとしての自己演出なんですよね。ロープレコンテストっていうのはまさにそれを物語っていて、ショッピングセンターでやっていること自体がロールプレイングなんです。

で、ショッピングセンターっていうのは商店街に比べて均質でつまらないというのは、半分当たっていると思うけど、商店街もつまらないから寂れていると思うんです。でも、商店街の多様性の1つは、そこでやっているおじさん、おばさんが個々人の人格として現れているからだと思うんです。それが街に来る人たちにとって気持ちいいことかどうかはわからない。あの親爺はうるさいっていうのもあるかもしれないし。ショッピングセンターっていうのは人がロールをやっていて、人格じゃなく、役割として現れてきていて、だからすごくフラットな感じがしてしまう。それは街並のフラットさとすごく一致していて。でも、多くの人にとってはその方が楽でいいんですよ。

ただそれは街っていうものが持っている要素を削ぎ落としていることにもなるんです。この店は一体なんだろう? みたいなことが無いじゃない。で、ショッピングモールの店員って、通路歩いていても目が合うと必ず挨拶してくれるんですよ。

平本 基本的に徹底して外向きですよね。

若林 そうですね。で、それは、あの空間が内向きだからですね(笑)。買い物に来る人しかいない空間で、普通の街だったらなんだか良くわからない人が歩いているじゃないですか。

平本 そうですよね。通りすがりでたまたま店の前を通ったけど、商店街には興味も無い人がいるのは当たり前ですからね。

若林 そう。それで、いちいちそういう人には挨拶しないでしょ? だから、反対にショッピングモールは定型化された表層のやり取りで出来上がっている。実際の都市はものを売る機能だけじゃなくて、人が生活して、色々なことをしての街なわけだから、そういうものは全く存在しない空間です。その意味では裏返しの街なんだけど、実は街じゃない。

街はどこに行った? っていう感じですよね。

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