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東京を巡る対談 月一更新

佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談 脳の研究が進めば音楽の作り方も変わる?!

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<研究人生全てをかけても解明できない深い世界>

平本 かなり深い世界に挑んでいらっしゃるのですね。
実際に最先端の脳研究ではどこまで解明されているのでしょうか。

佐々木 脳の中では大体役割として区分けにすることができます。この辺が記憶する作業の中で大事そうな部分であったり、物を見るとき、音楽を聴くときに使われる部分というのはわかっているのですが、その一つ一つの部分の中でも何千万、何億という信号があります。音楽のイメージに似ていてドレミファソラシドの流れでもそれぞれにかなり細かい周波数が含まれているイメージですね。それらがさらに音が重なったりしているので、かなり複雑になっていきます。

平本 そのように聞くと、急に複雑になってきました(笑)。

佐々木 巷では例えば、大雑把に音楽は脳に良いので聴覚野を鍛えましょう、ということが言われたりしますが、それは脳の中の神経細胞がどういう仕組みで活動するか解明しないと、なぜ音楽が脳に良いのかということを説明できなくなってしまうのです。一応すべての細胞一つ一つを解析すればすべてのことについては説明がつけるということになりますが、先ほどの話のように、これには膨大な時間を要するコンピュータ解析とシュミレーションが必要になるでしょう。

平本 そう伺うとその研究は果てしないもののように思えるのですが、研究者1人の人生の中で、研究が終わりきることなどできるのでしょうか。

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佐々木 おそらく終わり切らない可能性はありますね(笑)。でも、この世界に入って10年くらい経ちますけど、今は10年前と比べものにならないほど、テクノロジーが進化して、研究が解明されてきましたし、パソコンのスペックを考えただけでも研究できる量は増えました。ですので完全に研究結果が分かるところまでいくのは難しいかもしれませんが、その過程を見て楽しむのも研究者としていいかなと思います。

平本 今までの10年間でそうだということは、これからの10年間、20年間でもっと解明される可能性があるということですね。

佐々木 全部は難しいかもしれませんが、今までの研究の進歩を見ていると、わかっていくという期待もあります。また、こうした研究の発展を基にして、薬についてもいいものも出来ていくと思います。うつ病やアルツハイマー病、てんかん等の脳疾患のための薬というのは、ほとんど神経細胞のような細かいメカニズムはわかっておらず、実は飲ませてうまく効いたから昔から使っているという薬が多いのです。全身麻酔も何で効くのかまだわかっていないくらいです。

平本 麻酔はわかってないらしいですね。なぜ麻酔を打つと眠くなるのかも未だわからないのは、少し恐く感じます。

佐々木 もし神経細胞などの活動がもっと細かくわかってくれば、薬の効果がこの神経細胞にこういう風に効いたから効果が出たというメカニズムがわかるかもしれない。そういった期待を込めて、大学では脳の基礎研究を進めています大学にあります。製薬会社さんが、大学のそういった基礎研究の発見をさらに応用していただき、いい薬を作ってもらえればとても嬉しいことです。我々はそのためにも、もっと基礎的な研究を進めるというスタンスで仕事をしています。

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