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東京を巡る対談 月一更新

佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談 脳の研究が進めば音楽の作り方も変わる?!

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<いいアイデアは空白の時間にストンと落ちて来る>

平本 佐々木さんの普段の生活スタイルはどのようなものですか?例えば研究の効率を良くするために何か工夫していることとかありますか。

佐々木 私が所属する池谷研究室は、全部で40人くらいの学生がいます。研究室の規模としてはかなり大きい方ですね。ですので、学生たちからの報告や研究の相談などの会話で1日が終わってしまうこともあります。時間が空いたら、脳波の解析や自分ができることをして、1日が終わっていくという感じです。そして、だいたい8、9時には帰りますね。

平本 その時間に帰るのは、永遠にやってしまうから、みたいな理由はあるのですか?

佐々木 いえ、先生がいつまでもいるのは学生も嫌がると思うので(笑)

平本 なるほど、確かにそうかもしれません(笑)

佐々木 あとアイディアを考えなきゃいけない時はできるだけ外に出るようにしていますね。部屋にこもっていても出てこないと思うので。平日でも日中に時間が見つかればここ(カフェ)にも来ています。脳の話になりますが、ある程度空白の時間がないと、アイディアが出てこないんです。目や耳で見聞きしたものの情報で我々が認識しているのは20パーセントくらいで、残りの80パーセントは脳の中でぐるぐる回っているんです。アイデアを出すには、外から脳に入ってくる情報をなるべくシャットダウンするような空白の時間が必要なのです。

IMG_1563平本 確かに作曲をする上でも空白の時間は大切な気がします。作曲作業をしていない時間というか、別のことをしている時間というか。その間もどういう曲を作ろうか、脳の何処かは考えているようで、あるときストンと作曲のベクトルが定まるんです。そうしたら、あとはこもって作業するだけ。そうするといい曲が書けます。そして、書けたらすぐに離れる。その曲がいい曲かどうか判断するために、そのできた曲を全く聞かない空白の時間をここでも設けます。一晩くらい時間をおいて、次の日の朝一で、耳が全然疲れていない状態で聴く。そこで真の判断をします。

佐々木 それで出来た曲は納得のいくものになっていますか?それともなんでこんな曲を作ったのだろうとかなることはありますか?

平本 仕上げたときにいいなと思った曲は8、9割は当てが外れていないですね。ただ夜遅くまで延々とやって仕上げた曲はよくない場合が多いです。

佐々木 僕も同じことが言えます。夜遅くまで考えた研究を翌朝見直すとなんでこんなことをしようとしたのかと思うことがあります。何も面白くないじゃないか、と思うことがります(笑)

平本 あれはなんなんでしょうね(笑)夜遅くに熱中したものの危うさというか。僕はいい曲ができるのは鍵盤の前に座っている時ではなく、案外、外を歩いていて鼻歌を歌っている時の方がいい曲に繋がったりします。日常の何もない、のほほんとした時にパッと浮かぶことが多いです。浮かんだら慌ててレコーダーに録音します。

佐々木 人間の面白いなと思うのは、日常でパッと浮かんだものに対して面白いと思えることなんですよね。次から次へと脳は動いているんですけど、それを見ている自分が面白くなる。

平本 どこか自分を第三者判断、俯瞰することができたりしますよね。この判断というのは人間だけできることなのですか?

佐々木 そこはなんともわからないですよね。ネズミに聞くことはできないし、ただ人間の場合はそれが上手なのだと思います。

平本 確かに、日常で努めて俯瞰的になろうとすることは多々あります。逆に、俯瞰的にならない、なれないときもありますし。

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