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東京を巡る対談 月一更新

佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談 脳の研究が進めば音楽の作り方も変わる?!

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<脳は音楽を分解して聴いている>

平本 最近の研究はどういったことをされていますか?もちろん話すのが大丈夫でしたらお聞きしたいです。

佐々木 今回アメリカへ2年弱留学に行った際に完成しそうな研究が一つありまして、それはネズミが走り回って複雑な迷路を覚えていくとき、どういうふうに神経細胞が活動すると、効率的に一番迷路を覚えやすいのか、というテーマです。ちょうど今月か来月に大きい内容が発表できるのではないかという予定です(2018年1月にプレスリリース発表されました。http://www.f.u-tokyo.ac.jp/news.html?key=1516522073)。

平本 その佐々木さんが研究されていることが分かることによって、さらにどのようなことに発展していきますか?

佐々木 私たちは作業をするときに、物事を1,2,3と順番を追って片づけていきますが、それがどのような海馬の細胞メカニズムなのか解き明かすヒントになります。今の時代は、一般の方でも当たり前のように「記憶といったら海馬」といった脳の知識をもっていますが、私たちはこうした内容をより深く、そして正確に突き詰めて、その機能を解明していく研究になると思います。

平本 そうですね。確かにそういった脳科学の知識に関する本も多く出版されていますね。それこそ今料理も科学だと言われていて、食材という物質の変化ですので、どういう食材で何度で調理したら旨味が出るというのは科学と同じです。ですが音楽については科学的に突き詰めることって全然できないんですよね。料理では食材、調味料を相手にするので、1℃の違い、さらには0.1℃の違い、時間の違いが結果に如実に出ますけど、音楽はそうはいかない。もしかするとその神経細胞の研究が進むことで感動の秘訣が解明されたとしたら、脳の変化と理論づけてメロディを作ることができる発想が出てくるのかなと思います。

佐々木 その通りだと思います。脳がメロディをどのように感知するか(聴覚)、というのはまだまだ謎が多い問題です。

視覚については、動物でもだいぶ調べやすいため、ものを見るとき(視覚)の神経細胞のメカニズムはだいぶ解明されてきています。映像はすべてピクセル単位で目に入ってきて、それが分解されて脳に入ってきます。脳では、そうした細分化された情報を再構築し、目の前にあるものを認識します。

いっぽうで音(聴覚)についていうと、視覚ほど詳しいことはわかっていません。ただ、聴覚の情報処理で確かなのは、すべての音は、視覚と同様に一度分解して脳に入っていくとういことです。視覚の場合は、ピクセル単位に分解したものを再構築していますが、聴覚の場合は、外界の音をそれぞれの周波数に分解して、脳の中で再構成するようです。音についてもメロディがそのまま脳には入っているわけではありません。IMG_1554

平本 それは面白い。脳は実は音を分解しているというのははじめて知りました。分解しているということは、今までの経験則に関係なく音について判断できるということですよね。それで一つ腑に落ちたことがあります。作曲を始めた中学生の時に、作曲をするという行為に違和感があったんです。譜面に音符を書くこと、和音やメロディ、リズムに落とし込まなくてはいけないということにすごい違和感があったのです。本当にはじめて作曲をするそのときから。本当はもっと自由に音を伸縮できたり、和音などを考えずに音を出せるのにと、もやもやしながら大学に入りました。大学に入って現代音楽、ノイズミュージックを聞いたとき、和音やメロディ、拍子も何もない音楽に、これだ!と思い、感動しました。これまでの経験値に一切ない音楽なのに、それらに対して美しいと思い、魅了されたのですが、なぜ自分がこのような音楽を美しいと思ったのか不思議でたまりませんでした。それがいま少し解明された気分です。

佐々木 すごいですね。音がそれ自体で感動させるとは本当に不思議ですよね。

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