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東京を巡る対談 月一更新

佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談 脳の研究が進めば音楽の作り方も変わる?!

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<AIと人間の脳、それぞれにスゴさがある>

佐々木 ところで最近では、人工知能の台頭があり、芸術の分野において、今後どうなっていくのか興味があります。例えば、人工知能(AI)に映像を入力すると、音楽を作ってしまうようなコンピュータも開発されていますよね。そして、こうした人工知能の仕組みでは、実際の脳の神経細胞と同じような原理で働くものも多くあります。作曲家さんのような芸術を生み出す人たちにとって、そういった脳を模倣したコンピュータは驚異的なものなのでしょうか?音楽はあくまで音としてみれば一次元であり、情報量としてはそこまで多くはないはずです。しかし今のところ、(感動するものを作るのには)人工知能はまだまだな気がします。

平本 音楽をメロディ、和音、リズムといったパラメータに落とし込むと失敗する気がします。音楽は、ドレミを使った音符、楽譜に書けるものばかりではないので、そこに落とし込まなければAI独自の音楽が生まれる気がして、そのとき人間を超えた曲を作るかもしれません。それこそ、0.01秒しか鳴らないけど、そこに数ギガの情報を詰め込んだ音楽とか、AIのプログラムの一部だけを組み替えて、快楽を与えるような音楽とか、人は感じられない、聴けないものも出てきそうです。

佐々木 音を作ることはできますけど、いいかどうかを判断するのは人間なので、当分はかかりそうですね。

平本 判断が人間なので、その部分も検証する必要がありそうですね、人によって違う部分もあると思いますし。
AIは出すものを制限をかけなければすごいところに至れるのではないかなと思います。絵を描かせるにしても三次元で描かせると意外に考えつかないものができちゃうのかなと。ここ2、3年の技術の進歩は驚異的じゃないですか。

佐々木 まさにその通りだと思います。絵を描かせる人工知能も最初はひどい絵でしたが、今どんどん改良されてきていますし、映像をつくるAIにしても上手くなってきていますね。

平本 佐々木さんの研究は脳の仕組みを見て脳から細部を追求しますよね。人工知能は、プログラムという細部から全体を作り上げていく、そのプロセスが逆になっていることに興味を覚えます。

佐々木 科学的な言葉で言うと、これは分析的と構成的なアプローチみたいな区別になります。
両者とも、コンピュータのスペックがどんどん上がっていることで大きく進んでいると思います。

平本 やはりコンピュータのスペックが上がることで研究が進むことはありますか?
IMG_1612佐々木 我々の脳を分析する研究では計算速度が速くなれば、それだけ効率もよくなることはあり得ます。
プログラムという細部から全体を作り上げていく構成的アプローチの話に戻りますが、実は人工知能で注目されているディープラーニングなどがなぜうまく動くのかは未だに完全にはわかっていないんですよね。脳の細胞とシナプスに似た回路をうまく繋いだことで上手に動いたというだけで、何かわからないけどできちゃったという感じがあります。けっこうすごいことです。

平本 つまり、偶然で出来上がったというわけですね。そう考えると人間の脳はかなりよく作られているということですね。

佐々木 脳では相当な数の配線が綺麗にできているので、あまりにもAIがその人間の脳に似て欲しくはないなとは思いますね。ちょっと怖いですし。

平本 配線が綺麗と言うのは素敵なたとえですね。例えばサヴァン症の患者でピアノを一度も習ったことがないのに、テレビで流れてきたベートヴェンの曲を一度聴いただけでピアノで弾けるようになった話を聞いたことがありますが。

佐々木 それもやはり(シナプスの)繋がり方の問題だと思うんですよ。本来は繋がらないようにしている神経細胞が、何かがきっかけで繋がってしまい、スーパーパワーになっているのだと思います。

平本 本にも、人間の記憶はだんだん減退していくけれど稀に全部記憶できる人がいる、とありましたね。やはり人間も個体差は大きい?

佐々木 大きいと思います。それだけ複雑な繋がりで一人一人の脳は成り立っていますから、ほとんどの能力の個人差を説明できるくらいのポテンシャルはあると思います。

平本 佐々木さんの研究は未来的にここまで至りたいというゴールはありますか?

佐々木 自分の仕事は基礎研究の立場ですが、脳の根本原理がわかり、人類の文明を少しでも前に進められれば、それが一番うれしいことです。さらに、この研究を基に薬ができるのであれば嬉しいですし、あるいは、社会の人が少しでも正しく脳を理解できるヒントが得られればそれも嬉しいことです。

平本 佐々木さんがされている研究などから、人間の仕組みについて理解が及ぶことってありますよね。音楽を聴くときに何を以って人は感動するのかわかれば作曲の仕方も変わると思いますし。逆に、それがわかることでよりわからなくなることも出てくるかもしれない。

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