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東京を巡る対談 月一更新

佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談 脳の研究が進めば音楽の作り方も変わる?!

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<人間とネズミ、基本的な思考機能に差はないってほんと?!>

平本 佐々木さんの著書「脳と情報 神経回路と記憶のメカニズム」を読んで思ったのですが、性格がシナプスに依存する、うつ病などの病気にシナプスから着目する、ということにとても惹かれました。

佐々木 動物の体というのは、外からの刺激を脳がキャッチして体に指令を出すという点は共通しています。ただ性格については、例えば、全く同じ物を見ても喜ぶ人と、喜ばない人がいたります。喜びやすい人は、喜びに必要な神経細胞へ情報を伝えるまでのシナプスが強いのだと思います(神経細胞どうしのつながりのことを「シナプス」と呼びます)。逆に、ムカついてしまう人は、ムカつくために必要な神経細胞までのシナプスがつながりやすくなっています。脳には膨大な数のシナプスがありますのでそう簡単に証明できないのですが、原理的にはそうしたメカニズムで説明できるはずです。こうしたシナプスに関する研究で最近わかってきているのは、例えば、自閉症患者の脳内では特定の場所にシナプスが集まりすぎてしまっている。それによって一般の人が執着しないところで過剰になっていたりする、といったことです。

平本 そうなんですね。情報をどの神経細胞で処理しているか、人それぞれ違うとは。驚きます。確かにそう言う意味では、一つの音楽を聴いても、心が躍る人、つまらないと思う人、意識すら行かない人と多様な反応があります。逆に、どの神経細胞で反応処理させるか、操作ができることも将来可能性としてはあるのでしょうか。

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佐々木 そうですね。人に対して操作となると、倫理的な問題が出てきますが、実験動物のネズミでは、脳の中のある神経細胞だけを人工的に活動させるようなことができます。そうすると、例えば、本来は嫌なものでも、喜んで向かっていくような行動が現れたりします。つまりネズミの性格を変えるくらいのことはできるようになっているのです。

平本 わっ、それはすごい。すこし恐ろしさすら感じる現状です。性格については、人間は意識的に自分の性格を変えることができますよね。例えば、興味がないと思っていた音楽を聴かないでいると、そこに対する意識は広がらなくなりますが、ある時にその音楽にふと興味が出てきて聴いてみると、そこに魅力を感じることがありました。新しい視点を獲得するような感覚です。自分から遮断してしまっていたものを改めて意識することで、ものの見方が広がっていく。そういう自己改革的なことが人間はできるような気がするのですが。

佐々木 確かに、人間は意識的に自分から何か変えていかなくてはと考えることもできますよね。これは高度に発達した人間の脳では、神経回路が何層にも重なっているため、自らの意思で知識や性格を変えていくことがかなり得意になっているからだと思います。人間と比べると、ネズミの回路の層構造はシンプルです。でも、実はネズミですら(迷路の中を走るときに)たまにはこっちに行ってみようと、わざと間違えたりすることもあるんですよ。

平本 そうなんですか。ネズミも自己改革できると。ネズミも侮れませんね(笑)

佐々木 ぼくらの考えでは、普段僕らがすることをネズミも出来るのかなと考え、ネズミに覚えさせてやっていきます。自分のことを説明できるようにしたいからネズミに覚えさせるということです。例えば、仕事というのは、基本的には嫌なことがあるけれどそれを乗り越えて、初めてお金がもらえますよね。ネズミでも餌までの道に、嫌な空気砲や電気ショックを与える部分を作っていても、そこを乗り越えてでも餌を手に入れようとします。ネズミですらその道の先に行こうかな、やめようかな、とか障害物の直前で考えるんですよね。こうした実験に挑戦しようと思ったのも、仕事の意欲といったものをどんな神経細胞の働きで説明できるのかなのかなと考えたことがきっかけですね。そこから少しでも人間の脳の活動を説明することができると嬉しいなと思いますね。

平本 面白いですね。もしかすると人間とネズミ、基本的な思考機能の差はあまりないのかもしれないと思いました。個体差も確かに、人間も、困難な状況に立ち向かう人もいれば、困難は避ける人もいますし。

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