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東京を巡る対談 月一更新

佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談 脳の研究が進めば音楽の作り方も変わる?!

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<感動のメカニズムもいずれ解明される>

平本 また、ある人が弾くと感動しないのに、ある人が弾くと感動する。あるいは誰が弾いても感動する曲があるじゃないですか。あれはとても不思議です。

佐々木 脳のどこかで分解された音が再構築されて、感動に結びつくことになります。感動(情動)に関係して活動する神経細胞の存在は知られていますので、原理上は、メロディが脳に入ってきて、その神経細胞まで情報が結びつけられれば感動に繋がるはずです。ただ、こうした細かいメカニズムになると、私たちが扱っているネズミに感動しているのかどうか聞くことはできないですし、人間で調べなければならなくなるので、なかなか難しいですね。

平本 感動しているかどうかを調べるためにはやはり人間で実験しないといけなくなるのでしょうか。

佐々木 人間の感動のメカニズムを知りたいということになると、難しいですよね。例えば、今の人間のMRIや脳波測定の技術は、神経細胞の細かいことを知れるような解像度はなく、かなりざっくりした情報しか得られません。これでは、まだわかった感じはしないですよね。今後、MRIや脳波測定の技術がさらに進み、数十年後くらいにはわかるようになるのかもしれません。

平本 音を聞いて感動するか否かの研究は今一番調べにくいものなのですか。

佐々木 そうですね。平本さんは生まれながらにして音楽で好きなもの嫌いなものはないですか?

平本 音圧に関して言えばあるかもしれないです。一番耳が受け取りやすい周波数で130db以上の爆音を出す。耳を手で押さえていても多分聞いた瞬間にダメになってしまう音響兵器ってあるくらいですし。
IMG_1545佐々木 恐ろしいですよね。
世界共通で感動するメロディはあるんでしょうか?音の好みが先天的か後天的かという問題です。おそらく美しいものがわかるというのは、ある程度は後天的な学習が必要で、人それぞれに形成されていくと思うんですけど。

平本 そこは気になるところです。例えばビング・クロスビーが歌った「ホワイトクリスマス」は世界中の多くの人にいまも愛されています。それ以外にもそう言った、多くの人に支持される曲は沢山あります。ということはそこには何か感動という作用の秘密、秘訣があるのかもしれません。世界にはドレミファソラシドではない音の文化を持った国の方が多いです、日本もそうですし。そこでドレミファソラシドで作られるようなメロディを20歳くらいまで一切聴いたことがない人にそういった支持の厚い曲たちを聴かせた時に、どう反応するのか、とても興味があります。もちろんこの情報が錯綜する時代には難しいことかと思いますが。

佐々木 どうなんでしょうか(笑)。意外と反応はあるのかもしれないですね。

平本 あるのではないかと思います。反対のこと、つまり、ドレミでない音楽を聴いて、こちらは感動することは多々あるので。

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