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東京を巡る対談 月一更新

佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談 脳の研究が進めば音楽の作り方も変わる?!

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揺らぎの中から生まれてくるもの>

平本 佐々木さんの本を読んでみて、”揺らぐ”という言葉がよく出てくるのが印象的だったのですが。

佐々木 脳はノイズにまみれているというか、人間はコンピュータのように完全にAをしたら必ずBが出てくるということができないですよね。結構いい加減で、次から次へと違うことを考えますし、音楽にしても良かったと思ったり、ダメだと思ったりしちゃいます。それを脳のはたらきとして捉えて、脳が”揺らぐ”と呼んでいます。

平本 確かにそう言う意味では常に”揺らいで”いるかもしれません。Aという方法を知り、それがBという結果を出すベストだと思っていたけど、他の方法を試行錯誤で試してみると、実はAという方法がワーストだったということもありますし。その”揺らぎ”が新たな道を獲得する結果になることもしばしばあると思います。

佐々木 揺らぎから選択肢を見つけるということで考えると、芸術ってある意味本当に自由でなんでもありじゃないですか。自由度が無限にあるような作品を、どうやって作っているのかなと思う時があります。例えば、映画音楽を作るときは先に映画があるのでしょうか?それとも先に曲を作らないといけないのでしょうか?

平本 音楽の付いていない映像が先にあります。それを見ながら音楽を考えて、作曲していきます。映画を作る全行程の中で、音楽を作ることは一番最後の作業になるんです。だから、全体のスケジュールの最後の帳尻合わせも作曲家がしなくてはいけない。というとなんか大層なことに聞こえますが、要は作曲できる時間は縮まっていくばかりで、後ろを伸ばせない(笑)

佐々木 そういった中で、しかもどの楽器を使ってもいいというアイディアが自由な中でどうやって作曲をされるのでしょうか?平本さんの映画を見ていて音楽が合っているのですごいなと思います。

平本 それは嬉しいです。現実的な話からいうと、監督の要望や音楽への考え方を聞くことから始めます。映画『さよなら渓谷』ではチェロを、映画『少女』ではヴァイオリンとチェンバロを使って欲しいという要望がありました。あとはどこに音楽を入れたいか、どういう雰囲気を作りたいか、そういったいくつかのヒントは与えられ、後は自由に作曲していく。そして自分の感覚で、各シーンには合うテンポ、音の情報量を探り当てていきます。

佐々木 そこまでいくには経験値が全然違いますね。

平本 もちろん作った経験が一番大切ですが、経験をもとに他の作品を見ることで培われていくものもかなりあると思います。

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