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東京を巡る対談 月一更新

小㞍健太(ダンサー/振付家)× 平本正宏 対談 研ぎ澄まされた経験的感覚—探り、踊る



<成長過程を彩る山手線車内の情景>

平本 今回のロケに山手線を選んだ理由は何ですか。これまでほとんど海外で生活していて、いまフリーになり、東京に拠点を移そうとされています。小㞍さんなりの視点で、日本および東京がどのように見えているかも一緒に伺いたいのですが。

小㞍 ほんとに人が多いよ、東京は。渋谷に行くと気持ち悪くなるぐらい(笑)。山手線は一番嫌いかも。でも、絶対東京に行ったら乗る路線だし、山手線に乗ったら「あー東京にまた来たなぁ」って実感する。それに長く会っていない友人と再会することもよくあるんですよね、一番利用してる路線だし。ヨーロッパに戻って東京のことを思い出そうとすると、なぜか山手線に乗ってる風景が必ず思い浮かぶ。

海外に行く前には、毎日のように東京にリハーサルに行っていて、よく宇多田ヒカルのアルバム「First Love」を聴いてたから、いまでもそのアルバムを聴くと電車のなかを思いだします。

平本 日本の曲と、移動中の電車の情景が結びついているんですね。混雑の象徴と考えればいいんだろうか。

僕も山手線があまり好きじゃないんです。高校、大学、大学院と9年間も通学で使ったけど、すげー嫌いで(笑)。

小㞍 元東京バレエ団の西脇(信雄)先生にも師事していて、小学校4年生のときから先生のスタジオがある武蔵小杉に通い始めたので、その移動は自分の成長過程を彩っている部分がある。背伸びしなくてもドアの窓の外が見えるようになったことや、そばに立つおじさんの肩まで身長が伸びたこと、そんな思い出があります。

東京都内に住んでいたわけではないし、18歳でヨーロッパに行ってしまったので、東京で所縁のある場所を聞かれても、正直なところあまりない。東京全体をひとまとめに捉えてしまい、「東京の全体とは何か」と問いを立てると、これというものが出てこない。けれど海外に行ってから、山手線と東京タワーがなんだか東京のシンボル的存在になりました。

平本 ヨーロッパに山手線のようなものってありますか。

小㞍 オランダでは、トラム(路面電車)が走っていて、山手線みたいな区間の短い電車の路線はあまりないですね。大きい都市同士を結ぶ電車が一般的だし、そもそも街自体もそこまで大きくない。東京みたいに30分乗っててもまだ住宅があるなんてオランダでは考えられない。街から10分も走れば、次の街に着くまで、牧場や農場ばかりです。

平本 混雑してる電車もない?

小㞍 朝はけっこう混んでるけど、ぎゅうぎゅう詰めで押さなきゃ人が入らない、ってことはない。

そういえば、外国人の友達に聞いても、山手線に乗った印象は相当強く残るみたいです。

平本 そんなにインパクトの強いものなんだ。

小㞍 やっぱり、環状になってる路線はなかなかないみたい。

平本 ヨーロッパにはそういうのないんですか。

小㞍 バスくらいかな。都市の規模自体が小さいというのもあると思います。円環が閉じていて、戻ってくる場所というイメージ。……こじつけっぽいけど(笑)。

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