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東京を巡る対談 月一更新

小㞍健太(ダンサー/振付家)× 平本正宏 対談 研ぎ澄まされた経験的感覚—探り、踊る


<痛みや衰えを覆い尽くす新感覚>

小㞍 衰えについては最近思うことがあって、体力的な衰えは年齢とともに確実にあるけれど、身体的な感覚の衰えというのはない、というか。年齢とともに感じかたは変わるけれど、衰えとは違うと思っています。いままでの様々な経験があるからこそ摑みうる身体的な感覚なんだろうな。この間、勅使河原三郎さんのソロ「月下氷身 世阿弥〈融〉のヴァリエーション」という作品を見たけれど、身体的な衰えを感じさせるどころか、身体がその場の空気までも動かしているように見えて、とても素晴らしかった。

平本 つまり体力的なものではなく、経験的な感覚は進化、成長しているっていうことか。もしそうなら、年をとっても新しい発見や新しい身体の使いかたに気づくってことですよね?

小㞍 そうそう。いろんな感覚を経験してきたからこそ、探れる感覚や分かる感覚があると思う。そういうふうに、僕も今までなってきてるし、これからもそうでしょう。

平本 なるほど、それは音楽も一緒。やっぱり経験値が増えるっていうのは大切なことで、自分が努力したり悩んだりすることを止めない以上は、変化しつづけられるってことじゃない? 作曲家も演奏家も同じだと思います。

小㞍 それを続けていける人がプロなんだよね! 若い振付家はたくさんいるけど、キリアンやエック、ウィリアム・ファーサイスのように高齢まで作りつづけていく人はやっぱり天才的だよね。

平本 ただ、そういう反面、今しかできないものもある。20代でも荒削りだけど画期的な作品が生まれたり。自分のダンスを振り返って、いまは無くなったけど、あの頃はあったみたいなものってありますか。

小㞍 あんまりないかなぁ!? 変わってないって言った方がいいかも(笑)。ロンドンで公演してる作品は、5年前に踊ったものの再演なんだけれど、あのころの感覚も残っているし、新しい発見もありました。同じ振付だけど、毎回違うフィーリングで。パートナーともいつも公演後に、そのときの新発見について話してます。誰かと踊る作品である以上、必ずその変化を共有したくなるので。

平本 衰えじゃないけど、よく痛くなる身体の部分とかありますか。

小㞍 あるある。左の腰と……肩胛骨が鞭打ちみたいになることが。その痛みがあっても踊れますけど。自分で振付をしたときは、気づかないあいだに身体のことを考えてるらしく、痛みがない。あんまり無理なことはしないっていうか(笑)。

平本 痛みを感じないように自然と振り付けちゃうと、頭打ちになる不安も抱えこみそうですね。

小㞍 うん、だから他の人の振付で踊ることも必要。

平本 自分を客観視するために。

小㞍 そのために人の意見を受け入れる態勢を作っておくこと、ですね。

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