<スクラップ&ビルドがある街・渋谷>
ヲノ それでこの年、「fill」と「moodcore」という2つのレーベルを立ち上げたんです。実質8年ぶりに、再び音楽作品のリリースを再開したという。例の西麻布新世界では今も数ヶ月に1回ライヴを続けてますし…。あ、さっきも話に出ましたが、平本くんにも出演していただきましたね。
平本 出演させてもらいました。あのヲノサトルからお誘いがー!!と興奮したのを覚えています(笑)。
ヲノ あはは。あれは、安田さんに「電子音楽系の、と言ってもポップな音を作る若い人、誰かいません?」って訊いて紹介してもらったんだよね。そこからつながって今日はこんなインタビューを受けてるわけだ。
平本 そうです。安田さんと僕は篠山紀信さんのお仕事でご一緒して。
ヲノ そう考えると、今までやってきた事は、ほとんど人とのつながりのおかげですね。偶然に流されっぱなし。主体性ってあんまりない。それで活動範囲も、あちこちに広がってしまったのかな。逆に「ブルース1本で行きます!」みたいにさ、強い意志を持ってる人がうらやましいですよ(笑)。でもまあ、そのおかげで平本くんともこうやって出会えたわけだし。これからも仲良くしていただければと思います。なんて、まとめたりして(笑)。
平本 素晴らしいまとめ、ありがとうございます(笑)。僕もヲノさんをマネて、流される人生を歩もうと思う内容でした、もう結構流され人生なんですけどね。あはは。
最後になりましたが、今日渋谷を選ばれた理由について教えてください。
ヲノ 渋谷はスクラップ&ビルド。ヒカリエができて東横線のいままでのホームがなくなって、ガツンと動線が変わったじゃない。メチャ歩きにくくなったんだけど、そういうスクラップがやたらある街。どんどん変わるけど、良くも悪くもそれが東京という街の象徴かなと。
平本 変化し続ける生き物ですね。ヲノさんが渋谷近郊に住むようになってどれくらい経ちますか?
ヲノ 25年くらいですかね。
平本 じゃあ、結構な変化を見ていますね。
ヲノ その前の東京オリンピックのときのようなドラスティックな変化は知らないけど、その後のマイナーチェンジは見ているから面白いよ。しかも街が変わるだけじゃなくて、歩いている人種が変わるのがまた面白くて、例えば90年代にいたチーマーとかマンバとか、もういないじゃない? そういう変化。
しかも今は、「盛り場に若者が集まる」という図式がもうなくなっていると思っていて。休日になったら原宿行くとか、渋谷行くとか、そういう行動パターンもなくなってきているんじゃないかと思うんだよね、それをネット上ですませている。大学生とか見ていても自宅と学校とバイト先の3角を動いているだけ。僕らの時代は、人と会って何かを吸収しようとか、この人と会えたら別の世界に行けるんじゃないかとかそういう幻想を持っていたでしょ。で、それは一部は幻想に過ぎなくて、一部は現実のものになったり。でも、そういう幻想自体が持たれなくなっているんだと思う。
平本 それはいつごろからですか?
ヲノ 2000年代、もっと言うとテン年代。ここ数年が特に。学生を定点観測していての印象だけど。
平本 ヲノさん、多摩美の先生になってどれくらいですか?
ヲノ 10年くらい。だけど、その間にかなり変わったと思う。例えば使うメディアが、パソコン通信から、掲示板、mixi、Facebook、ツイッター、ラインと移り変わってきた。
平本 いまのヲノさんが教えている世代の人たちは、人とは会わなくなってきたけど、逆にどんな強みがありますか。
ヲノ 生まれた時からPCとネットがあるから、そこらへの順応はすごいよね。個人作業ですごいアニメを作ってネットで発表しちゃったり。だから、なんてことはない、どの世代も決めつけられた世代特有の行動をとる人たちと、そこから抜けて行動するやつの2種類いるのは変わらないよね。抜けるやつは常にいるわけだよ。ただおしなべて言うと、今の世代は外に出ない、飲みにも行かない。自分の生活圏の外には出ない。ビールを飲む人も減ってきているよね。
平本 ソフトドリンクを?
ヲノ いやカクテルとか酎ハイとか、甘いお酒を飲むんだよね。でもそんな中にも必ず「ゴキュゴキュ飲む輩」はいるけどね(笑)。割合は年々減ってきているとはいえ。
平本 じゃあ我々が呑み師として、その保存にも尽力した方がいいですね。変な締めくくりになりましたが、本日はありがとうございました!
ヲノ それじゃ早速、呑みに行こうか!
平本 もう呑んでるじゃないですか!(笑)
ヲノサトル Satoru Wono
撮影:moco http://www.moco-photo.com/