document

東京を巡る対談 月一更新

ヲノサトル(音楽家)× 平本正宏 対談 コミュニケーション好きの音楽


<作曲家へのいざない>

平本 ヲノさん、作曲家になりたいと思ったのはいつ頃ですか?

ヲノ 小学3年生くらいのときに映画が好きだったんですね。最初に見た映画が『ターザン』だったんだけど、そのあとチャップリンの『独裁者』、バスター・キートンの『セブン・チャンス』っていうスラップスティックな無声映画を見たわけ。それがやっぱり強烈で、無声映画時代のコメディなので言葉に関係なく子供でもわかるわけですね。『独裁者』はトーキーだから少し難しい話なんだけど、それにしてもエッセンスとしてはパントマイムじゃないですか。それでドン嵌まりして(笑)。で、日曜日になるとあんぱんと牛乳もって映画館行って。今と違ってロードショーじゃなくて3本立てくらいでやっていた時期なので、3本見て、それが終わってももう1本居残って見ていた。そういうことをやっていると映画の音楽がかっこいいとなってくるんです。で、レコード屋さんに行ってサントラ盤を買って繰り返し繰り返し聴く。ちなみに一番最初に買ったレコードはベートーベンのカラヤン指揮の『交響曲第五番』なんだけどね、メチャメチャど真ん中で(笑)。

それで、そのときに直感的に思ったのが、映画のサウンドにオーケストラが何か似ていると。70年代の映画って今と違って、オケが音楽の基本じゃないですか。いまはバンド・サウンドだったり、エレクトロニックな音楽だったりするけど、当時は生オケだったので。それで、そういうのを聴いているうちに、自分もこのメロディ弾けないかなと思って、それで今度は楽器を習ったんです。

平本君はいつから楽器習ったの?

平本 いやー、実は僕ピアノ独学なんです、大学入るまで。

ヲノ おおー、すごいね。

平本 中学生のときに作曲やってみたくなって、でもうちにピアノがなかったので、中学校の音楽室のピアノを先生に借りて、放課後毎日一人で練習しました(笑)。毎日3、4時間グランドピアノ使えるわけですから、贅沢だったんです。そこで、親に買ってもらったJPOPや坂本龍一の楽譜を少しずつ譜読みしながら練習して。本当に何時間弾いていても飽きないので、学校でピアノ弾いて、家に帰ってからはお小遣い貯めて必死の思いで買ったKORGのシンセサイザーN364で寝るまで弾いたり、曲作ったりしていました。1日7時間くらい弾いていたんじゃないですかね。

ヲノさんはいつからピアノを習ったんですか?

ヲノ 僕は姉がいるんですけど、姉がオルガンを習っていて。当時楽器を習うっていうと、ピアノかエレクトーンで、姉はエレクトーンを習っていたんです。そのために家には電気オルガンがあって。そのオルガンを使って『ゴッドファーザー』のテーマとか弾いてみる。で、弾くと忘れるから楽譜に書くと。そういうことをやっているとだんだんオリジナルの曲を作り始めるんだよ。

平本 へえーすごいですね。

ヲノ (笑)すごいって、自分だって作曲家じゃん?

平本 いや、そうですけど、小3でって早いなと思って。

ヲノ でも、このままじゃだめだと思い始めて。なんでもそうだけどそういう時期ってくるじゃないですか、ステップアップしたいというか。それで家の近所で人集めて教えているヤマハのギター教室に行くようになって、クラシック・ギターを習ってみたわけですよ。足を変な台に乗せて(笑)、それで小学校6年くらいまではそれを習っていたんですよ。フェルナンド・ソルとか、ヴィラ・ロボスとか、ピアノでいうところのハノンとかツェルニーみたいなところを習ってて、ある日ふと気づいたんだよね、ギターって弦6本しかないじゃないかと。ということは6音しか鳴らせないじゃないか、それだと俺の出したい和音は鳴らせないじゃないかと(笑)。ピアノだとペダル踏めば10個以上の音が鳴らせるから、やっぱりピアノだと思って、それからピアノ習い始めたんですね。

平本 遠回りしましたね(笑)。なんで最初にギターを習ったんですかね。

ヲノ わからないけど、なんかカッコよかったんじゃないですか(笑)。パッと見てこれだと思っちゃうという、子供にありがちな。それで中学生からピアノと同時に作曲も、地元の音大の先生が子供集めてピアノと作曲と楽理を教えていて、そこに個人レッスンを受けにいって。

平本 ヲノさんの音楽人生はそもそも映画音楽がスタートなんですね。

ヲノ そう、振り返ってみるとね。映画でしょ、オルガンでしょ、作曲。で、いまやっていることをハッと振り返ると、大学で映画を教えて、明和電機でオルガン弾いて、作曲しているっていう(笑)、なんてことはない、小学校の頃と同じじゃないかとハッと気づくんです。

平本 ハッと気づくことが多いですね(笑)。それでステップが変わるんですね。

ヲノ そうそう、日頃いかに何も考えていないかがわかる(笑)。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10