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東京を巡る対談 月一更新

ヲノサトル(音楽家)× 平本正宏 対談 コミュニケーション好きの音楽


<はじめてのキーボード>

平本 ちょっと話を元に戻して(笑)、中学で作曲の勉強し始めて、高校に入ってからはどうだったんですか? 初めて手にしたシンセサイザーとかありますか?

ヲノ 高校1年のときに、SH-1かなローランドの。学校に持っている人がいて、それを借りてきたんだよね。中学生のときにYMOがデビューして、その残像はあったから、シンセに憧れがあって。でも触ったものの、音を出すのに何日かかかり。そこから打ち込みを始めるまでにはまた少し時間がかかりましたね、シーケンサーが手元になかったので打ち込みという概念もなかったですから。吹奏楽部に入っていたので、定期演奏会の時はそのシンセを持っていって、みんなの演奏をバックにYMOの「ライディーン」を弾いて(笑)、なんか今思い出しましたね。

打ち込みをやるようになったのはもっと後で、大学の音響心理学を専攻している先生の研究室にPC9801とかカモンミュージックのレコンポーザーっていうソフトがあって、その研究室の鍵を借りて入り浸ったのが始まりですね。打ち込みは設計欲とつながっていて、自分で入力した音がその場で鳴るわけですから、レゴブロック作る感覚でハマっていきましたね。80年代の終わり頃です。

平本 DX7が出たくらいの時期ですか?

ヲノ 大体その頃ですね。ちょうど持っている先輩がいてそのバンドに入れさせてもらって弾いて。当時はニューロマ、つまりニューロマンティックっていうのが流行っていたんですよ。デビッド・ボウイが「Let’s dance」とかを出した頃なんですけど、MTVが80年代後半盛り上がってきて、そのときに今で言うヴィジュアル系の元祖みたいのが出てきたんです、UKから。Franky goes to hollywoodとかKajagoogooとかJAPANとか、そういうバンドが化粧して前髪垂らしてスーツ着て演奏していて。で、それにこじらせちゃったんだよ(笑)。

平本 ええ!! それにこじらせちゃったんですか。

ヲノ 大体僕の人生は、気付きとこじらせだから(笑)。そういうコピーバンドをやりながらDX7弾いたりしていたんだよ、それが大学生時代の頃だね。DX7は重かったね。なんであんなに重かったんだろうね。でも、その頃は重いのに慣れていたんだよ、RolandのJunoとかJupiterとか。一度Fender Rhodesのスーツケース(持ち運びできるとされたエレクトリックピアノ)を友達と2人で運んで、翌日40度の高熱出したことがありましたよ。グランドピアノに比べれば軽いもんだという変な気持ちがあったんだよね。何かより軽いと思えばできる気になるからね、人間は(笑)。

大学は新潟大学教育学部音楽科に作曲のコースがあるんだけど、それを受験案内で見つけて、秋田からそこに行ったんですよ。そこで紙に書く作曲を日本海見ながらやって(笑)、それでさっきも話したけど心理学の先生の教室に入り浸って電子音楽好きになったものだから、東京学芸大学に住谷智っていう先生がいるっていうのでその研究室に行ったんです。お金無かったからずっと研究室の機材を借りてテープ音楽みたいなものを作っていて。その大学院の2年のときにたまたま応募した現音の新人賞を取って。

平本 神奈川県芸術祭合唱コンクールではなく?

ヲノ それは1年生のときに取ったやつ。現音の方はシアターピースのようなヴァイオリン、チェロ、ピアノ、ボーカルの作品で、発想としてはサンプリングを用いたんです。様々なフレーズと言葉をちりばめたような曲で、ジョン・ゾーンに影響受けたりもしていて。当時のサンプリングでやっていたことを生楽器に置き換えたらどうなるかという問題意識があって。とにかくそれで賞を取ったものだからこれでいいんじゃないかと思って、大学院出たんだけど、でもご存知のように現代音楽の作曲賞なんか取っても何も変わらないわけだよ(笑)。それでしょうがないから、食っていくために富士通っていうパソコンの会社でその年発売になったFM TOWNSっていうコンピューターのOSやシステムの音楽を作るっていう仕事を先輩から紹介されたの。毎日そこのスタジオに行って曲を作る。それを昼にやって、夜は現代音楽や実験音楽のメンタリティでサンプラーやキーボードを使って即興演奏をやっていた。

平本 その活動は一人でだったんですか? ほかの人たちと一緒にということもありました?

ヲノ 基本は一人で。今で言うとノイズ・ミュージック的な文脈で。そのとき、池田亮司くんとかも一緒にコンテンポラリー・ダンスの音楽を作ったりとかしていたよ。そういう活動の中でいろいろな人と知り合っていったんだね。20代はこじらせつつもこんなことやって何になるんだと迷う時期でもあって、あとお酒好きだからいろいろな場所に出入りして人と知り合ったりして。

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