document

東京を巡る対談 月一更新

ヲノサトル(音楽家)× 平本正宏 対談 コミュニケーション好きの音楽

<30代のヲノサトル>

平本 作曲家って、そうでないと楽しめない職業だと思いますし。ここまでヲノさんのお話伺っていると、この30歳になるまでの20代にその後の人生を左右するというか、人生にとって重要な人と出会っていますよね。椹木さん、有馬さん、明和電機と。明和電機では小さい頃のオルガンとギターの体験が結び付いていますし(笑)。30代はどんな感じだったんですか? 段々とヲノサトル・クロニクルが進んできますね(笑)。

ヲノ CM音楽とかゲーム、ビデオの音楽とか、いわゆる制作仕事でお金を稼ぎつつ、パソコンやサンプラーを使った即興演奏、電子音楽とかノイズ・ミュージック的な演奏活動はコツコツ続けてたんだよね。30歳の時は大友良英さんのグループで燐光群という劇団に参加したこともあるな。niftyのコミュニティを通じて巻上公一さんや三輪眞弘さん、赤松正行さんといったコンピューター・ミュージックを掘り下げてる人たちともつながったり。

平本 おおー、大友さんとヲノさんが一緒に活動というのは知りませんでした。

ヲノ あと、当時テーマにしていた「サンプリング」の実践としてDJを始めたのもこの頃。学生の頃から「クラシックの勉強してるのに、夜は六本木のディスコで遊んで、小脇に”流行通信”とか”スタジオボイス”を抱えてる自分がオシャレ」と思い込んでるイタいやつだったので(苦笑)。

平本 そういう「違った面をいくつも持っている俺」みたいなのをオシャレだと思い込みますよね、学生の頃(笑)。

ヲノ そうそう(笑)。クラブ・カルチャーやハウス・ミュージックは大好きだったけど。ビートにノる事よりも、この曲とこの曲がつながる…という連想ゲーム的な遊びとして、DJを始めたのね。でも流行りの曲を流すDJだと、毎月レコードを買い続けなきゃならないじゃないですか。そうじゃなくて、古いレコードを「意外にも今どきのこんな曲につながる!」と「発見」してみせるみたいなスタイルを目指したわけ。それなら、買ったレコードは実験音楽の方でもサンプリング・ソースとして再利用できるから。貧乏性なもんで(笑)。

なので、明和電機のツアーとかで地方に行くたび、必ずご当地のレコードショップに行ってね。「自分なりのレア盤」を買い漁ってたな。たとえば大野雄二さんが手がけた「ルパン三世の音楽」。子どもの頃は単にアニメとして楽しんでたけど、クロスオーバーっていうかブラジリアン・フュージョンっていうか、あらためて今聴いたらヤバいんじゃね?という感覚で。

平本 へえー。そのDJ聴いてみたいです。

ヲノ それで、夜遊び仲間たちとシャレで、クラブでそんな曲を流す「ルパンナイト」というDJイベントを始めたら、これがウケた。京都や大阪のハコでも毎月レギュラー持つようになったんですよね。その後しばらくして、どこかのレコード会社からもルパン関連のダンス・リミックス盤が次々に発売されたので、まあ、それなりに影響力はあったのかなと。

そうなると、もちろん自分でもダンス系のサウンドを作るわけで。ハウスやヒップホップ、ドラムンベース的なオリジナル曲をコソコソ作ってたら、明和電機が当時所属してたソニー・ミュージックが、いいよCD出しなよと言ってくれたので1998年…33歳の時に初のソロCD『甘い科学』というのを出しました。


ヲノサトル デビューCD『甘い科学』

平本 昨年僕も出演させてもらった六本木新世界のイベントでヲノさんが歌っていた「さよならエジソン」も収録されているCDですね。このジャケット、覚えてますよ。懐かしい。(ちなみにリリース時、平本は中2です)

ヲノ 歌ったよね、久しぶりに(笑)。この年は、カエルカフェというレーベルとも知り合って、そっちからはそれまで録りためてきたサンプリング・コラージュ的な実験音楽を集大成した『SAUVAGE』というアルバムも出したのね。ポップスとノイズと、同じ年に両方のデビュー盤を出すということで、もうね、どっちなんだ? お前は?と(笑)。まあ、両方やるんだぜ俺は、という意気込みを示したかったんだろうけどね。

そのあたりから本格的にポップスも面白くなって、いろんなアーティストのリミックスとか、小川範子さんや浜崎貴司さんといったアーティストの編曲やプロデュースといったスタジオ・ワークが多くなっていったんだけど。一方では現代音楽の作曲とか、ノイズ系の即興演奏も続けていて。いや本当に節操ないですね。どっちなんだお前はと。

平本 話聞いているだけでも節操無いですね、いい意味で(笑)。つまり30代にヲノさんのアイコンと僕が認識している<得体の知れない感>が研ぎすまされたと。でも、そういうのすごく好きです。

ヲノ どっちも好きだからしょうがないんだけどね。

平本 好きだとしょうがないですよね。僕も電子音楽、映画音楽、バレエ音楽、それ以外にもセクシーアイドルユニットPINKEYのプロデュースとかもやっていて。PINKEYでは作曲だけでなく、作詞も(笑)。でも、どれも楽しいんですよね。それぞれの面白さに夢中になっちゃう。そろそろ新しいことをということで、ロックバンドでも始めますかね(笑)。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10