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東京を巡る対談 月一更新

成田憲保(天文学者)×平本正宏 対談 未知なる惑星を求めて



<これからのハビタブルプラネット探し>

成田 先程話しました太陽系に近いところにあるハビタブルプラネットの探し方の2つ目がトランジット法を使って探すという方法なのですが、その為には太陽系の周りにある沢山の星を見ないといけません。ケプラー宇宙望遠鏡はケプラー領域という、白鳥座の方の1カ所だけを4年半かけて見続けていたのですが、次の計画では空全体を観測できる宇宙望遠鏡が2017年に打ち上げられる予定です。

ケプラーと違って一つ一つの観測領域は短くなってしまうんですが、太陽より温度の低い低温度星になると、ハビタブルゾーンが地球よりも内側にくるんですよ。内側に来ると、公転周期が短くなりますよね。公転周期が短くなってくれるので、太陽系の近くにあるハビタブルプラネットはケプラーみたいに4年半かけなくても発見できてしまうわけです。

平本 長い時間でなく、短い期間見るだけでで観測できるということですね。

成田 ケプラーというのは太陽の周りを回る地球みたいな惑星、まさに第2の地球を見つけるのが目標だったので、少なくとも3年以上見続けないとっていうふうに設計されたんです。今度打ち上げられるTESS(テス)って言う宇宙望遠鏡は、一つの領域がそれほど長くなくてもいい。その代わり沢山の、全天の星を観測していこうというものです。トランジット法で候補を発見できたら、赤い光と青い光で深さを比べる観測やまわりの他の星がいないかを調べる観測をして、候補が本物の惑星なのか星なのかをいち早く調べる。それで惑星だと分かったら、あとはドップラー効果を使って惑星の質量や軌道を明らかにします。そういう観測で太陽系の近くにあるハビタブルプラネットを探そうというのがこれからのハビタブルプラネット探しの方法です。

平本 例えば赤外線で見れるところに惑星が見つかったとするじゃないですか。でも、そこの恒星は太陽ほどパワーがないということですよね。そういうところにも水や生命が存在する可能性があるんですか?

成田 パワーはないんですが、その代わり惑星が近いところにあるのです。太陽ってパワーは強いけど、全方位にそのエネルギーを出しているので、基本的には地球くらい離れたところがちょうどいい状態になります。一方、低温度星というのは出しているパワーが少ないので、惑星はすごく近いところにあるというのが条件になります。

平本 それこそでかい太陽が上がってくるような星になっているわけですよね。

成田 そうですね。太陽に比べて数倍ほど低温度星は小さくなります。でも太陽と地球の距離より10倍くらい近くなりますので、我々が見る太陽よりはやや大きく見えると思います。

平本 そういう星って望遠鏡からのデータを基に観測するだけで生命の存在までわかるのですか?



成田 それはむずかしいですね。実際に生命がいるかどうか判別するというのはその星に実際に行ってみれば分かると思いますが、さすがに50光年先になってしまうと難しい。一番近くにある隣の恒星でも4.3光年とか離れているですよ。光の速さでもそれぐらいなので、実際に行こうとなると今の技術では現実的には無理ですね。そう考えると、我々天文学者として出来るのは、その惑星がどういう大気を持っているのか、そういう情報を集めることですね。しかしそうすると、何を生命の痕跡だと思えばいいかというのがなかなか難しい疑問になります。やっぱり水はないといけないと思いますが、水があるだけでは生物がいる証拠にはならない。

それでは何があればいいのか?、ということで、有力だと言われてきたのは酸素です。酸素があると植物などの光合成をする生物がいる証拠になります、と言われてきたのですが、必ずしもそうではないかもしれない。地球上の酸素はほとんどが植物などの光合成をする生物によって作られているんですね。ところが金星にも微妙に酸素があるんです。それはなぜかというと、水蒸気(H₂O )があった時に太陽から強い紫外線などが飛んでくると、H₂O からHが分離して逃げてしまう。そうすると、Oだけが残ってしまうんです。それが原因で酸素ができてしまう可能性が指摘されています。しかもこれからハビタブルプラネットを探そうとしている低温度星たちは、暗いくせに強い紫外線を出していたりするんですよ。

平本 ということは、酸素が一定量見つかったとしても紫外線が強いために作られている可能性を考えなくては行けないということですね。

成田 そうなんです。なので、一筋縄では全然いかない問題です。生命が存在する決定的な根拠が何かというのもまだはっきりしていませんし、低温度星の周りでどれぐらいのレベルの酸素があれば生命の痕跡と考えてもいいのかがまだ分からないんですね。例えば光合成をする生物が低温度星の周りにいたとして、どれぐらい光合成できるのかとか。光合成をしたらどれぐらいの酸素が出るのか。環境も全然違いますし、判断するのはとても難しい。だから天文学の問題なのに、天文学じゃない問題も絡んでくるんですよ。天文学者だけでは答えを出せなくなってきているんです。

平本 それは面白いですね。

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